田舎暮らしの30代看護師
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フィクション

『わたしたちに翼はいらない』寺地はるな 救いと再生の物語

 

学生時代の関係が今も続いている方ってどれぐらいいるでしょう。

幼馴染、親友、恋人、、

大人になった現在も友人関係が続いていたり、かつての恋人が今ではかけがえのないパートナーとなっていたり、はたまた、昔は仲が良かったけども今は連絡をとっていなかったりと。

様々あると思います。

この作品を読んでみて、学生時代の関係なんて今となっては、自分の人生のほんの一部分でしかなくて、でも当時はそこにしがみつくのに必死だったなとどこか懐かしさのようなものを感じました。

本日は「生きる」ために必要な救済と再生の物語・寺地はるな氏著作『わたしたちに翼はいらない』について紹介していきます。

寺地はるな氏は1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。

2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。

2020年『夜が暗いとはかぎらない』で第33回山本周五郎賞候補。2021年『水を縫う』で第42回吉川英治文学新人賞候補。同年同作で第9回河合隼雄物語賞受賞。

『川のほとりに立つ者は』で2023年本屋大賞9位入賞。

他の作品に『カレーの時間』『白ゆき紅ばら』などがあります。

当ブログでは、なるべくネタバレのないようにあらすじ・感想を書いております。

 

 

あらすじ(帯表紙より)

 

同じ地方都市に生まれ育ち現在もそこに暮らしている3人。

4歳の娘を育てるシングルマザー、朱音。

朱音と同じ保育園に娘を預ける専業主婦、莉子。

マンション管理会社勤務の独身、園田。

いじめ、ママ友マウント、モラハラ夫、母親の支配。

心の傷は恨みとなり、やがて、、、

 

 

注目ポイント

闇を抱える3人の男女

朝、目覚めた時に「死んでもいいかな」と思いついてしまった園田。

「死んでもいいけど、どうせなら殺してから」と考え直す。

かつて、自分の日々を暗いものにした中学の同級生を、、

些細なことを咎める夫との離婚を決め、4歳の娘と家を出た朱音。

幼い頃に母親を亡くし、「孝行娘」として生きてきたけれども、、

中学の頃からクラスの王様だった男と結婚した莉子。

女の子は勉強ができても仕方がない、可愛くないと母に言われ続け、自分もそう想ってきたが、、

どこか心に不穏な影を潜ませている3人。彼らの辿る物語にぜひ注目してください。

 

過去に縛られ生きること

中学時代に自分をいじめていた同級生。彼が今も充実した人生を送っていることに、ますます殺したくなったと語る園田。

そんな彼の思いを聞き、「いいんじゃないですか」と言う朱音。

彼女はかつての恩師の教えを引き合いに「いじめた彼らも罪を償うべきだ」と語る。

「私たち、最強だったよね」

中学時代の立ち位置のまま大人になってしまった莉子が、かつての思い出話をしながら言ったこのセリフ。

そんな莉子をどこか滑稽な目で見る朱音との対比。

それぞれの思いが交錯する時、新しい世界が見えてきます。

やがて、3人の出会いがもたらすもの

狭い地方都市に住む3人が出会い、そして密に絡んでいきます。

違っているようでどこか似ている、そんな思いを抱えており、それぞれの出会いが、3人の中で止まっていた何かを引き動かします。

互いの意識の根底にあったものは何なのか、そして、物語が進むにつれそれぞれが出した結論とは、、

ぜひ注目してみてください。

 

感想

 

辛い過去を引きずる人、過去の栄光を美化しつつ根拠のない自信を持って生きている人。

彼らは無意識に優越感や劣等感を抱いており、そのせいで相手を殺したいほど憎んだり、本当の自分を殺したりしています。

「がんばったねなんて、相手をよっぽど下に見てなきゃ言えるはずがない。外見がどうだとか勝手な基準をこっちに当てはめて評価する権利があくまで自分のほうにあると思っている人間じゃなきゃ、とてもそんなことは言えない。お前らは勘違いしている。いつでも自分が他人を「認めてやる」側にいると思っている。」(引用)

その姿に共感したり、滑稽に思えたり、とても人間らしさを感じる作品でした。

誰かと比較したり、他人の目を気にして生きるのは苦しくて辛いですよね。その苦しみが少しでも楽になる方法を彼らが教えてくれます。

学生の頃は狭い世界の限られた人間関係の中で生きていて、自分がどこかの集団の中に属していないと浮いてしまうような気がしていました。

たいして仲が良くない人の前でも作り笑いをしたり、空気を読んだり、居心地の悪さを感じつつもそこに居続けなければ、自分の居場所がなくなるような。

そんな気がしていました。

大人になった今となっては、そんなことどうでもよくて。

友達はいない。でも、さびしくはないですよ。だって友だちじゃなくても、相手のために行動したり、大切に思うことはできるから。(引用)

まさにこれです。(筆者に友達がいないということではありません)

学生時代の関係なんて今となっては、自分の人生のほんの一部分でしかなくて、でも当時はそこにしがみつくのに必死でした。

雲に届くように高く飛べ、君には翼がある。

群れから離れ、高く飛翔する者は美しい。そのような生き方は美しい。強く気高い者は美しい。それでも朱音は飛ばない。どれほど醜くても、愚かだと笑われても、地べたを歩いて生きていこうと決めた。わたしに、翼はいらない。(引用)

関係を作るのは容易く、壊れるのはもっと容易い。それがわかってきた今だからこそ、どこか割り切って生きられる。

それが真理のように感じるからこそ、3人の不器用さにもどかしさ、滑稽さを感じ、そして共感してしまいました。

意外とシンプルに物事は進むはずなのに意図せず遠回りしてしまう。そして、そこに至るまでの心理描写が上手く描かれているので、登場人物に感情移入しやすく思えました。

 

こんな人にオススメ

 

・過去にとらわれて生きている
・人間関係に悩みがある
・友達が少ない

3人の主人公の、それぞれ視点が変わりながら物語が進んでいきます。

出会い、交錯し辿る結末に注目して欲しいです。

個人的に一番可哀想なのは莉子だと思いました。

いじめやモラハラ、ママ友マウントなど、身近な問題に潜む闇を炙り出しつつ、

群れなくても、友達がいなくても強く、誇らしく生きればいい。

そんなことを教えてくれます。寺地はるな氏著作『わたしたちに翼はいらない』

ぜひ、読んでみてください。