田舎暮らしの30代看護師
自己満
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ミステリー

『私が先生を殺した』桜井美奈 人気教師の切ない物語

 

教職というものは勉強を教えるのはもちろんのこと、生徒の模範となり、道徳や倫理、人生そのものを教える立場にあります。先を生きるものとして生徒の将来の道筋を先導しなければなりません。まさに生徒の将来を決めるのに重大な役割を担っている存在と言えるでしょう。

そんな中、私たちが見てきた、もしくは見ている教師像はほんの一部分にすぎません。裏ではどんなことが行われているか気になりませんか?

本日は、とある人気教師の悲劇を描いたミステリー・桜井美奈氏著作「私が先生を殺した」を紹介しようと思います。

桜井美奈氏は2013年に第19回電撃小説大賞で大賞を受賞しデビューしました。当ブログでは、桜井美奈氏の他の作品として「殺した夫が帰ってきました」も紹介しております。紹介記事のリンクはこちらをクリック。

 

当ブログでは、なるべくネタバレのないようにあらすじ・感想を書いております。

 

 

あらすじ(裏表紙より)

 

「ねえ、、あそこに誰かいない?」

全校生徒が集合する避難訓練中、ひとりが屋上を指さした。そこにいたのは学校一の人気教師、奥澤潤。奥澤はフェンスを乗り越え、屋上から飛び降りようとしていた。「バカなことはするな」。教師たちの怒号が飛び交うも奥澤の体は宙を舞う。誰もが彼の自殺を疑わず、悲しみにくれた。

しかし奥澤が担任を務めるクラスの黒板に「私が先生を殺した」というメッセージがあったことで、状況は一変し、、

語り手が次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りになる。

秘められた真実が切なく、心をしめつける。著者渾身のミステリー!

 

 

 

主要な登場人物

 

奥澤潤 〜 才華高校の英語教師。27歳と若く、ルックスの良さも相まって男女問わず人気が高い。生徒の進路について相談を受けたり、成績のよくない生徒に個別で教えたりと親身な対応をしている。ネクタイのセンスが独特であり生徒からよくツッコまれる。

砥部律 〜 奥澤のクラスの男子生徒。高校に入り授業についていけなくなり、授業中、わざとペンケースを落としたり授業妨害をはたらいていた。クラスメイトからは煙たがられていたが、本人は気にせず面白がっている。授業態度の悪さと成績不振から、奥澤に個別授業を受けことになるが、ある日ネット上でとある動画を見つけクラス中に拡散してしまう、、

黒田花音 〜 奥澤のクラスの生徒。成績優秀で真面目な性格。家庭の経済状況もあって特待生になるための指定校推薦での進学を目指していた。先生たちからの評判もよく、成績も良いので問題なく推薦されるはずだったが、直前で他の生徒に決まったと告げられる。納得がいかず、理由を奥澤に聞くも真実は隠されたままだった、、

百瀬奈緒 〜 奥澤のクラスの生徒。奥澤に特別な感情を抱いているおり、告白めいたことも伝えているが当然のことながら相手にはされていない。奥澤に好かれようと苦手な英語を猛勉強し、英語の成績は飛躍的に伸びた。他の女子生徒と奥澤の仲を不審に思い、奥澤を教室に呼び出し、ある行動に出てしまう、、

小湊悠斗 〜 奥澤のクラスの生徒。父親は医師、母親は薬学部の准教授という裕福な家庭で生まれ育ち、自身も医学部への進学を期待されていたが、本人はその意志はなくそこそこ名の通った大学への進学を目指していた。ある日、志望大学への指定校推薦が突然決まり、戸惑いを見せるが奥澤からは詳しいことは聞かされずにいた、、

永束晃治 〜 才華高校のベテラン教師。口が悪く粗暴なところがあり、生徒からは嫌われていたが、進路について詳しく調べ助言をしたりと教師らしい一面もあった。奥澤の高校時代の担任でもあり、奥澤が教師になるきっかけを作った人物。校長とは、昔はよく飲みに行っていた仲であり、その校長と共に奥澤にある提案を持ちかける、、

 

 

感想

 

この物語は全五章から成っており、一章ごとに視点が変わります。それぞれの視点から学校で起こる出来事の真相が少しずつ明かされていき、最後は奥澤先生の視点で語られ物語は終焉を迎えます。

その終焉は、とても切なさを感じるものでした。

教師という職業の過酷さ、大人数の生徒の個別性を捉えた対応や平等に向き合わなければならない難しさなど、頭を悩ませることに立ち向かいながらも奥澤先生は真面目で生徒に対してどこまでも誠実に対応していました。

私立高校では経営についても考えていかなければならなく、生徒数の確保や進学実績を上げるためには理想や綺麗事だけではやっていけません。

どんな仕事にも理想と現実のギャップを感じたり、葛藤することはあるでしょう。

奥澤先生は教師としての信念や倫理観、自身の生活や家庭、そして、生徒や卒業生の未来等あらゆるものを天秤にかけ、悩んだ末の結末でした。

間違いを犯すもの、それに加担するもの、見て見ぬふりをするもの、そして、間違いを咎めるもの。人間社会には多様な考え方が混在しています。

人は時として間違いを犯すことがあるかもしれません。

ですが、間違いに間違いを重ねても引き返せないことはありません。気づいた時に立ち止まったり、振り返ったり、引き返すことも必要です。それで失うものはあっても、間違ったまま進むよりかは良い結末が待っているでしょう。

奥澤先生は真面目な性格が故に、周りの人間に相談できずにいました。

現代社会においても、学校教師という過酷な労働環境のあり方や負担軽減策、悲劇を防ぐためのネットワークづくりや環境の整備などの必要性を感じました。

 

こんな人にオススメ

 

・学校の教職に就いている
・正義感が強く、間違いを放っておけない
・仕事に対して、理想と現実の差を感じたことがある

 

教育現場におけるリアルが鮮明に描かれており、心理描写や伏線回収もしっかりしており綺麗にまとめられています。

正義感は武器にもなり時として弱点にもなりえます。信念を貫き、曲げられない奥澤先生だからこそ葛藤し、もがいた結果の終焉だったと感じます。

そんな奥澤先生の誠実さが生徒にも伝わっていたため、ルックスだけでない人気教師たる所以だったのだと思います。

私が先生を殺したというタイトルの「私」とは一体誰なのか、誰が「先生」を殺したのかも注目ポイントです。ぜひ、読んでみてください。