田舎暮らしの30代看護師
自己満
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ミステリー

『遠火 警視庁強行犯係・樋口顕』今野敏 

 

現代の日本はまだまだ男社会だと感じませんか?

昔は男尊女卑という言葉があったように、男が働き家族を養い、女が家庭を守るという構図が一般的でした。

女性は稼ぐ手段がなく、パートナーの稼ぎなしでは生活ができないという状況だったため、どこか男性の方が上であるという風潮が生まれたように思います。

今では、女性もバリバリ働きますし、出世もします。男性も家庭に入るし、育休だって取得します。

しかし、まだまだ女性の方が弱い立場にあるような風潮を感じます。

女性のキャリアアップや職場復帰のしやすさなど見直すべき点は多々ありますが、一つ一つ良くしていくことで、女性の貧困や性被害の減少化などを図ることにつながるのではないでしょうか。

とはいえ、男尊女卑と言われた昭和世代の人間が根絶しない限りは、まだまだ男社会が続きそうです。

さて、本日は大人気警察小説シリーズ最新作・今野敏氏著作『遠火 警視庁強行犯係・樋口顕』を紹介します。

今野敏氏は1955年北海道生まれ。

『警視庁強行犯係・樋口顕』シリーズには「リオ」「ビート」「廉恥」「回帰」「焦眉」「無明」などがあります。

 

当ブログでは、なるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。

 

あらすじ(帯表紙より)

 

東京・奥多摩の山中で他殺体が発見された。警視庁捜査一課の樋口班は現場に急行。調べを進めていくと、殺されたのは渋谷署の係員が職質をしたことがある女子高生で、売春の噂があったことが判明する。

樋口顕は被害者の友人である美人女子高生と戸外で面会。すると、その様子を撮影した何者かによってインターネット上に写真を流され、同僚やマスコミから、あらぬ疑いをかけられてしまう。

秀でた能力があるわけではなく、他人を立てることを優先し、家族も大切にしながら、数々の難事件を解決してきた樋口。

謀略を打ち破り、殺人事件の真相に辿り着くことができるのか、、

 

 

注目ポイント

女子高生による企画集団

捜査の中で女子高生による企画集団・ポムの存在が明らかになる。

化粧品やファッションに関する小物を企画、提案しスポンサーがビジネス化する集団である。

しかし、ポムは実は売春グループの隠れ蓑になっているのではないかと警察の一部からは疑われていた。

果たして被害者と売春グループとの関係は、、

 

女性の貧困、性の商品化

樋口の娘・照美が広報担当を務める衆議院議員・秋葉康一は女性の貧困を政策に結びつけたいと考えていた。

女性の貧困による性犯罪への発展、再犯。

女子高生は自分たちに商品価値があることを知っているという同僚の言葉。

そして、被害者の友人である女子高生をどこが娘の高校時代と投影して見る樋口。

今回の売春絡みの事件と潜在化する社会問題も注目ですね。

 

平凡な係長・樋口顕

警視庁強行犯係・樋口顕は係長であり、階級は警部。

いわゆる中間管理職である彼は、上司からの信頼は厚く、部下や他部署の若手すらもいつの間にか心を許してしまいます。

捜査能力や推理力が突出しているわけではなく、威厳や圧力で押さえつけるわけでもない。

時には他部署の刑事と対立しながらも事件を解決していく樋口。

その人間味にも注目してほしいですね。

 

感想

 

テンポよく物語が進み、これぞ王道の警察ミステリーだなと感じました。

起承転結がハッキリしており、二転三転することはありませんし、どんでん返しもありません。

事件が起き、捜査を進めていく中で疑わしい人物が浮かび上がり、解決へと導いていきます。

主人公の樋口顕は名探偵でもワンマン刑事でもなく、家族思いで波風立てることを嫌う平凡な中年のおっさんです。

彼は秩序を乱している。言い争いごとは避けたい樋口だが、ここは何か言っておかなければならないと思った。(引用)

 

「あんたはいつも相手の話を聞くだけで、手なずけてしまう。まさに、樋口マジックだよ」

「俺は人とぶつかりたくないだけだ。気が弱いんだよ」(引用)

威厳や貫禄で部下を押さえつけることもなく相手の話を聞き、立てることを考えつつ、ただ淡々と職務を全うしていきます。そんな樋口の姿に時には勘違いがありつつも、部下はしっかりとついていきます。

しかし、警察としての信念はしっかりと持っており、係長らしく言うべきところは言います。

そんな樋口のスタンスは取り調べにも現れます。

樋口はできるだけ穏やかな口調で言うようにつとめた。でないと、怒鳴りつけてしまいそうだ。警察をなめているというのは、世の中をなめているということだ。世の中に警察ほど現実主義な組織はない。それを理解していないのだ。(引用)

 

切れ者でも名推理を披露するわけでもない中年の刑事が淡々と捜査を進めていく中で、一人娘への接し方がわからなかったり、女子高生を可愛いと思ったりとなんとも普通の感覚を持っていることが親しみと人間味があり、樋口顕というキャラクターに魅了されてしまいました。

今作は女性の性被害、売春などに焦点を当てられています。

貧困女性の原因の一つとして社会のシステムが影響しており、雇用問題によるものであることは想像がつきます。

それにより、性の商品化や性被害につながったり、または性的加害者になってしまうことも考えられます。

しかし、それが未成年の女子高生となると話は変わってきます。

未成年者は多感で環境に左右されやすく、自分の世界を作ってしまいがちです。

そんな彼らの自尊心を傷つけることなく相手に寄り添い、導かなければなりません。

そして、”自分を想ってくれる人がすぐそばにいる”そう感じるだけで人はだいぶ楽になれます。

綺麗事かもしれませんが、そう感じました。

 

こんな人にオススメ

 

・王道の警察ものが好き
・年頃の子どもがいる
・ごく平凡なサラリーマンである

 

樋口顕と同年代の方におすすめしたい一冊です。(筆者は一回りほど下の世代ですが)

きっと共感することも多いのではないかと思います。

警察ミステリーでありながら、お仕事もの、人情もの要素を含んだ人間ドラマのような作品です。

今野敏氏著作『遠火 警視庁強行犯係・樋口顕』ぜひ読んでみてください。