みなさんは動物と言葉を交わしたいと思ったことはありますか?
また、動物と話せるならどんなことを話してみたいですか?
私は、人間をどう思うかを問いてみたいです。
今回登場するしゃべる鳥・ネネはとても賢いヨウムです。ラジオが好きで、モノマネが得意で、歌ったり話したりする。簡単な会話もできるし、人間の仕事の手伝いだってできます。
人懐っこく、賢い動物となら助け合いながら生きていくことも困難ではないことなのかもしれませんね。
今回は津村記久子氏著作『水車小屋のネネ』を紹介していきます。
津村記久子氏は1978年大阪市生まれ。
2005年『マンイーター』(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で太宰治賞を受賞してデビュー。
2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、2009年『ポトスライムの舟』で芥川賞を始め、数々の受賞歴があります。
本作『水車小屋のネネ』は2023年に谷崎潤一郎賞を受賞。
近著に『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』などがあります。
当ブログはなるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。
あらすじ
「家を出ようと思うんだけど、一緒に来る?」
身勝手な親から逃れ、姉妹で生きることに決めた理佐と律。ネネのいる水車小屋で番人として働き始める青年・聡。
水車小屋に現れた中学生・研司、、、
人々が織りなす希望と再生の物語。
感想
18歳の姉と8歳の妹が家を出てからの40年間の物語を10年ごとに語ってくれます。
境遇には恵まれませんでしたが、人生を悲観することなく、今できることを地道に続ける日々を送っていきます。
姉は穏やかだけど芯が強い。18歳で10歳年下の妹を連れて見知らぬ土地にやって来る決断力と行動力があり、妹は知的で冷静沈着。客観的に物事を見て判断することができます。
そんな姉妹が、新しい土地で出会った人たちの、なんと温かいこと。
最初は周囲に心配されていた姉妹も、頑張る姿に周囲の目も変わっていき、徐々に打ち解け、そして、居場所を築いていきます。
物語自体は、淡々と描かれていますが、決して楽な道のりではなかったことがわかります。
姉妹の語らぬ苦悩を思うと、心温まる物語と気安く言えませんが、読み終えた後も胸の中が温かいもので満たされた気持ちでいっぱいです。
そんな姉妹の人生の中心にいるのが、ヨウムのネネです。
そしてネネを取り巻く、姉妹をはじめとした人たちの思いやりの連鎖。このネネがめちゃくちゃ愛らしいのです。
蕎麦屋の浪子さんと守さん。ヨウムのネネ。画家の杉子さん。縁があって水車小屋の仕事を担うようになった鮫渕さん、研司くん。
家を出てきた姉妹にとっては、この地で出会った人たちがもう家族のように大切な存在であり、人との出会いを大事にすることってこういうことなのだと改めて気づかせてくれました。
「自分はおそらく、これまで出会ったあらゆる人の良心でできあがっている。そう思えることは、なんて幸せなんだろう」(引用)
そんな風に思える人生って素晴らしいと思いますし、感謝を口にすることは簡単でも行動で示すことは難しいと思います。
善良であることとはどういうことなんだろうか、と考えた時に、それは、目の前に困っている人に援助を押し付けることではなく、まずはお互いを個性ある者として認め合おうとすることではないのでしょうか。
当初、町の人々は姉妹を危うい暮らしをしている未成年として見ていますが、次第に彼女たちにとっての幸せは何かを考えて必要な手助けをしてくれるようになります。
二人は、それに応えるように自然な形で町の中に役割を見つけ、助けを求めている人の力になれる大人に成長していきます。
きっと誰にでも、そういう連鎖の中に自分を置くチャンスはあり、この物語はフィクションだけれど、描かれている人間の善良さは本当のことなのだと素直に信じることができました。
こんな人にオススメ
・人とのつながりを大切にしたい
・動物が好き
・日常の小さな幸せを見つけたい
1981年2021年までの40年間を10年ごとに語っています。
物語自体は淡々と進んでいきますが、姉妹とネネを取り巻く人間模様が温かく、こちらまで幸せな気持ちになります。
起承転結があり、驚きや刺激を求める方にはお勧めできませんが、人間ドラマのような小説を好む方にはぴったりの作品です。
『水車小屋のネネ』ぜひ読んでみてください。