今回紹介するのは染井為人さん著作『正義の申し子』です
染井為人さんの作品を読むのは『滅茶苦茶』『正体』と続き、これが3作目です。
ちなみに『正体』は2024年11月の映画公開が決まっており、気になって読んだところ、たいへん感銘を受けました。
2017年デビュー作であり、横溝正史ミステリ大賞優秀賞作でもある『悪い夏』も有名ですが、読んだことがないので、この後読んでみようと思います。
『滅茶苦茶』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
『正体』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。
あらすじ
現実では引きこもりながら、カリスマユーチューバー”ジョン”として活躍する純。
ある日、悪徳請求業者に電話をかけ、相手をおちよくる配信をする。
キャラの濃い関西弁男を懲らしめた動画は大好評。
ジョンはさらに、動画の男とリアルに会って対決できないものか考える。
そのころ、動画の餌食となった悪徳請求業者の鉄平は、ジョンをとっ捕まえようと動き始めていた。
やがてふたりは巡り会い一なぜか事態はヤクザや女子高生を巻き込んだ大トラブルに発展!
ふたりが迎える予想外の結末とは!?
主な登場人物
佐藤純 主人公。コミュニケーションが苦手な青年。タイガーマスクの仮面をつけると人気ユーチューバーのジョンに変身する。
栗山鉄平 関西出身の元暴走族。長身でイケメンなのでホストをしていた。しかし、うまく稼げず、暴走族の先輩のつてで架空請求詐欺をしている。気が短くて、キレやすい。この小説のもう一人の主人公。
西野 栗山の先輩で元暴走族。陰湿な性質。
樋口 栗山の後輩で、暴走族。栗山を慕っており、ともに架空請求詐欺の仕事をしている。
佐藤蘭子 純の妹。そこそこの私立の進学校に通いながら、髪を金髪に染めている高校一年生。
眞田萌花 蘭子の友達。黒髪の真面目な高校一年生。ディズニーが大好きで、恋愛にも憧れている。
日野梢枝 萌花と蘭子の友達。萌花が憧れるほどの大人っぽく、スタイルも良い。お金持ちの医大生の彼氏がいる。
マーシー 梢枝の彼氏で、お金持ちの医大生。
感想
正義とは何なのか、善と悪とはどのようなものなのか、その対比が巧く表現されていて登場人物にも感情移入しやすく、特にエピローグはいい着地点でまとめられていたと思います。
正義とは人間の数だけあり、その人にとっての正義は、別の誰かにとっての正義とは限りません。
価値観が人それぞれあるように正義も人それぞれです。
本作におけるそれぞれの登場人物視点での構成は、誰もが良いと考えていた「正義」というものが、実はそれぞれの主観の産物でしかないことを端的に示してます。
人間は主観の中でしか生きることができないのかもしれません。
どんなに客観的に物事を見ようとしても、その人の価値観というフィルターがかかってしまいます。
では、佐藤純にとって、またジョンにとっての「正義」とは一体なんだったのでしょうか。
当初、架空請求業者は社会悪であり、それらを成敗することがジョンにとっての「正義」だという名目で動いていました。
しかし、一方で佐藤純は家族に対して辛辣な言葉を浴びせ、妹の蘭子にまで暴力を振るってしまったり、怒りを自分自身で制御できないことに逆に驚き、自信を失っていきます。
自身の思うがままに力を行使することは正義ではありません。
そのことに気づきながらも、制御できない葛藤のようなものが「ジョン」という怪物を生み出したように感じました。
正義とは人間の数だけあり、ぞれぞれによって解釈が異なるものです。
ですが、一つだけ正義を定義するのであればそれは「困っている人を助けること」だと考えます。
ネタバレになるのであまり書けませんが、本作でも対立していた純と鉄平についに出会い、事態はあらぬ方向へ向かいます。
染井さんはこういったドタバタ劇を終着させるのがとても巧く、初めは悪かと思っていた人物でも、あれ?違うのかなと思わせたり、また、その逆もあったりと、その対立構造の枠組みがしっかりしており、キャラクターにメリハリが生まれます。
いつの間にか、その対立構造が曖昧なものになっており、予想外の結末を迎えますが、それまでもしっかりタネを巻いているので不自然さが全くありませんでした。
結局、「正義の申し子」とは何だったのか。
物語はそこに帰結しますが、相反するもの同士が同じ目的をもって起こす行動に原理も動機もなく、そこにあるのは「困っている人を助けたい」というシンプルな心なのだと感じました。
こんな人にオススメ
・社会に不満がある
・愉快、痛快な作品が好き
主に三人の登場人物からの視点で物語は進んでいき、事態は急展開を見せます。
対立していた両者の直接対決の行方、正義、善と悪とは何か、そして、感情の移り変わりなど見どころの多い作品です。
『正義の申し子』ぜひ読んでみてください。