病は気からという言葉があるように身体の不調は気持ち次第であったりすることがありますよね。
上手くいっている友達に嫉妬してしまったり、優秀な同僚と比べて自己嫌悪に陥ったり。
周りの顔色を伺い、言いたいことが言えなかったり。
思うようにいかないことが増えると不安やイライラで心が疲れ、身体に不調をきたすこともあります。
本日紹介するのは、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説をもつアニマルライドの物語・青山美智子氏著作『リカバリー・カバヒコ』です。
青山美智子氏は1970年、愛知県出身。2017年『木曜日にはココアを』で小説家デビュー。同作は第1回未来屋小説大賞入賞、第1回宮崎本大賞入賞。
21年『猫のお告げは樹の下で』で第13回天竜文学賞受賞。同年『お探し物は図書室まで』が本屋大賞第2位。
22年『赤と青のエスキース』が本屋大賞第2位。23年『月の立つ林で』が本屋大賞第5位となっています。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いようにあらすじ・感想を書いております。
あらすじ(帯表紙より)
新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園にある古びたカバの遊具・カバヒコには、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。
アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。
急な成績不振に悩む高校生、ママ友たちに馴染めない元アパレル店員、駅伝が嫌でケガをしたと嘘をついた小学生、ストレスからの不調で休職中の女性、母との関係がこじれたままの雑誌編集長、、
内容説明(ネタバレなし)
奏斗の頭
成績優秀だった中学時代にプライドが高くなり、高校入学後の成績不振が受け入れられない宮原奏斗。
ある日、クラスメイトの女子生徒・雫田との会話をきっかけに考えが変わり始める、、
紗羽の口
引越し先の幼稚園で出会ったママ友たちと馴染めず、嫌われないように調子を合わせすぎていて疲れてしまう専業主婦の樋村紗羽。
アパレル店員として働いていた頃のように言いたいことを言えない毎日を過ごしていたが、、
ちはるの耳
ウエディングプランナーとして働く中で、営業成績を他人と比較し過ぎるあまり、体調不良で休職してしてしまうち新沢ちはる。
同期の洋治から心配の連絡をもらうが、彼の優しさが心を痛めていた、、
勇哉の足
体育が苦手で、学校行事の駅伝に参加したくないため、ケガをしたと嘘をついてしまった小学生の立原勇哉。
参加することになったのは同じく走るのが苦手なスグル。
申し訳なさを感じる勇哉だったが、本当に足が痛くなってきて、、
和彦の目
80代の母の健康を心配するも、長年関係を拗らせており上手くコミュニケーションがとれない溝端和彦。
自身も老いを感じており老眼に悩まされていた。
歳には抗えず、親子関係を修復することは不可能なのか、、
感想
とても温かくて優しい小説だと感じました。
リカバリー・カバヒコの愛称で親しまれる公園のアニマルライド。自分が治したい部分と同じ部分を触ると回復するという不思議な都市伝説。
これはオカルトや魔法、ファンタジー要素は一つもなく、自分の弱さや甘えはほとんどが自分に原因があり、それに気づきを与えてくれるのは人、気づくのは自分自身でしかない。
社会の風潮や環境、人間関係など逆風に吹かれながらもそれらは全てカバヒコを通じて教わることができる。
周囲の人間の温かさや著者の世界観、こんなに優しい世界があったんだなとほっこりするような作品でした。
今回はいつもとテイストを変えて、私が響いた作中のセリフやフレーズをいくつか紹介します。
「苦手だから、めちゃめちゃ、めっちゃ勉強したんだよ」
「誰かに勝ちた勝ったんじゃなくて、私が、がんばりたかったんだ」(奏斗の頭より引用)
「褒められたくてがんばるって、それも悪いことじゃないんだけどな。それだけを目標にしてると、褒められなかったときにくじけちゃうだろ」(奏斗の頭より引用)
「不安っていうのも立派な想像力だと、あたしは思うね」
「不安っていうのは、まだ起きていないこととか、他人に対して抱くものだろ。それを思い描けるっていうのは、想像力がある証拠」(ちはるの耳より引用)
とてつもない立派な想像力を、私はきっと持っている。だとしたら、それを使って思いやりや優しさをふくらませていこう。相手のことも、自分のことも、もう少しだけまっすぐ愛していけるように(ちはるの耳より引用)
「何が大事で何が必要か、そのつど選択しながら生きているってことでしょ。なにもかも全部はっきり見てやろうなんて、そのほうが傲慢ですよ」(和彦の目より引用)
こんな人にオススメ
・不安や緊張を感じやすい
・小さなことですぐ悩む
・自分に治したいところがある
全五章からなる短編集です。同じマンションの住人が各主人公なので、前章の登場人物が違う章で出てきたりします。
個人的には「紗羽の口」と「和彦の目」が見応えがありました。
『リカバリー・カバヒコ』ぜひ読んでみてください。