田舎暮らしの30代看護師
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フィクション

『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈 最高の主人公現る

 

大人になると挑戦する機会って減ってきたと感じませんか。10代の頃は好奇心のままにチャレンジしていたことも、時間がない、お金がない、忙しいなどと挑戦しない理由を見つけては自分の心に蓋をして、いつからか好奇心そのものを失いつつありました。

しかし、人生を長い目で見てみると何かの選択をしなければならない今とは、ほんの一瞬の切り取りであり、選択しなかった未来も存在することを考えても何かを始めることって突然でいいし、辞めるのも別に人の目を気にすることではないと、10代の頃の無敵だった気持ちを思い出すような作品に出会いました。

本日は宮島未奈氏著作『成瀬は天下を取りにいく』を紹介します。

宮島氏は1983年静岡県富士市生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。

2018年『二位の君』で第196回コバルト短編小説新人賞を受賞。

2021年『ありがとう西武大津店』で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。同作を含む本書がデビュー作です。

今作の続編『成瀬は信じた道をいく』の紹介記事のリンクはこちら。

 

 

内容紹介(ネタバレなし)

ありがとう西武大津店

中学2年生の成瀬が「島崎、わたしはこの夏を西部に捧げようと思う」と突飛なことを言い出す。

その意味するところ、1カ月後の営業終了を控えたデパート西武大津店から生中継される地元ローカル番組に毎日映り込むというものだった。

膳所から来ました

「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」

西武大津店に通い詰めるというプロジェクトを終えた成瀬がまた変なことを言いだした。

幼馴染で友人の島崎とコンビを組み、M-1に出場するという成瀬はさっそく漫才の練習を始める、

階段は走らない

敬太は40代のサラリーマン。

ある日、西武大津店の閉店を知る。友人のマサルとお店に行くと、同じく閉店を聞きつけた同級生達に出くわす。

そして、ふと気まずいまま別れてしまった友人のことを思い出していた。

線がつながる

高校に入学した成瀬はなんと坊主頭だった。

1カ月で1cm伸びるのが本当なのか実験したいという。中学からの同級生である大貫かえでは、できることなら成瀬と関わりたくないと思っていたが、夏休みのオープンキャンパスで偶然成瀬と出くわす、、

レッツゴーミシガン

高校小倉百人一首の全国大会で滋賀に来ていた中橋と西浦は、滋賀県代表膳所高校のひとりに目を惹かれていた。

彼女の名は成瀬あかりだ。

西浦は中橋の手を借り、成瀬と会う約束をとりつける。

ときめき江州音頭

高校3年になった成瀬は将来に向けて歩き始める。

そんな中、たくさんの思い出を共有した友人の島崎からある報告を受ける。

それを聞いた成瀬は、、

感想

登場人物のキャラクターがしっかりと立っておりそれぞれの魅力を引き出している作品だと感じました。メインで語られる成瀬には圧倒的主人公感があり、とにかくかっこいいです。

老若男女を惹きつける力があり、成瀬はとにかく有言実行、誰の意思をも介入させず、ただ自分がやりたいことを一切の妥協を許さず、真摯に取り組みます。

その姿は読んでいて爽快感があり、帯にも書かれている通り、かつてなく最高の主人公だと思いました。

主人公という属性の特徴は、自分がやりたいと思ったからやる、といった行動原理に尽きると思います。

成瀬は勉強も運動もそつなくこなし、集団の中で群れることなく、ただ淡々と自分のやりたいことを突き詰めていきます。その全員に好かれるわけでなく、実際、厄介な女と邪険にされることもあり、そんな人たちとも距離をおかず、堂々と接していきます。

その圧倒的自分本意な行動に人は驚きつつも目が離せなくなり、気づけば自分もその一端を担いたいと思わせる。

そんな雰囲気が漂っているため、どこか完全無欠のスーパー超人のようなイメージが湧くかもしれません。

しかし、そんな成瀬も人並みに落ち込んだり、異性の言動に照れたりする部分が存在します。

それは、成瀬を取り巻く周囲の人間あってこそで、その関わりが成瀬というキャラクターの人間味を引き出し、血を通わせています。

そして、この作品は何かを始めたいと思う時の気持ちのハードルを下げてくれます。ほんの小さなことでも、なんでもやってみたくなります。

挑戦して、もし出来なかった時、嫌なことといえば周りに「ほらやっぱりね」と笑われることです。誰かにそう思われることはとても恥ずかしく、出来なかった自分に対する惨めさも感じることになります。

「やってみないとわからないことはあるからな」

成瀬はそれで構わないと思っている。たくさん種をまいて、ひとつでも花が咲けばいい。花が咲かなかったとしても、挑戦した経験はすべて肥やしになる。(引用)

ありふれた言葉のように聞こえますが、成瀬が言うと説得力が違います。

そして、そんな成瀬を見ていると、やってみること自体がとても楽しそうに見えてきます。

大人になると、挑戦する理由よりも挑戦しない理由を見つけては、自分の心に蓋をしてしまがちですが、何を始めるにも遅いなんてことは決してありません。

何かを始める一歩を踏みだす勇気をくれる、そんな一冊でした。

こんな人にオススメ

・何か挑戦したいことがある
・青春小説が好き
・爽快な作品が読みたい

短編6編からなる200ページの作品なので読みやすいと思います。

何かに挑戦する心や忘れかけていた好奇心を思い出したり、10代の青春時代や懐かしい友人のことを思ったりするような、どこか甘酸っぱい作品となっています。

『成瀬は天下を取りにいく』ぜひ読んでみてください。