田舎暮らしの30代看護師
自己満
読書とカフェ巡りが趣味。 SNSも覗いてみてください。
\ Follow me /
ミステリー

『名探偵じゃなくても』小西マサテル 紫煙の中に絵を見る

 

レビー小体型認知症という言葉をご存知でしょうか?

Dementia with Lewy Bodiesの頭文字をとり、DLBとも呼ばれます。

アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症と並ぶ認知症の一つで、症状として認知機能の低下に加え幻視、妄想、行動障害といったものがあります。

私は精神科の看護師なので、こういった患者さんを見たことがありますが、患者さんがふとしたことがきっかけで知性溢れる名探偵となり、圧巻の推理ショーを披露してくれたらなんと頼もしいことでしょう。

本日は小西マサテル氏著作『名探偵じゃなくても』を紹介します。

小西マサテル氏は1965年生まれ。香川県高松市出身、東京都在住。

明治大学在学中より放送作家として活躍。

第21回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2023年に『名探偵のままでいて』でデビュー。

現在、ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』や単独ライブ『南原清隆のつれづれ発表会』などのメイン構成を担当しています。

 

当ブログでは、なるべくネタバレの無いようあらすじ・感想を書いております。

 

あらすじ(表紙より)

 

クリスマス直前、居酒屋で”サンタクロース消失事件”について議論していた楓たちは、紳士然とした男性・我妻に声をかけられた。

彼はかつて小学校の校長を務めていた楓の祖父の教え子なのだという。

“連続自殺未遂事件”や”泣いている死体”など、楓や我妻が持ち込む不可解な謎をレビー小体型認知症の祖父が名探偵のごとく解決する。

しかし、その症状は一進一退を繰り返しており、、

 

 

内容紹介(ネタバレなし)

第一章 サンタクロースを見た男

小学校教師である楓の同僚であり、楓に想いをよせている岩田先生は幼少期、サンタクロースが自宅にいるのを見たと話す。

寝ぼけていたのではないか、記憶が曖昧なのではないかと周囲は疑うが、夢にしてはリアルな感触があったと岩田先生。

そして、なんとそのサンタクロースは自室であるマンション10階のベランダから姿を消したという。

果たして岩田先生が見たものとは、、

 

第二章 私を操る男

フランソワと名乗る舞台俳優がSNSでの誹謗中傷を苦に自殺をしてしまう。

その日から、なんと彼のファンが次々と不審な死を遂げてしまう。

ただの後追い自殺なのか。

そして、自殺の連鎖は終わらず、、

 

第三章 泣いていた男

居酒屋・はる乃で楓たちに声をかけてきた男・我妻。

楓の祖父の元教え子であるという彼の同僚の死体が自宅で発見された。

現場は不可解な痕跡が残っており、死体の手にはジョッキグラス。

そして、目には涙を浮かべていた。

果たしてそれらの意味することとは、、

 

第四章 消えた男、現れた男

岩田先生の後輩であり、恋敵でもある舞台俳優の男・四季

小劇団の座長も務める彼がファンの女性に対して冷たい態度をとったり、急に高級車に乗るようになったりと、以前に比べ様子がおかしい。

そんなある日、楓は四季の家に向かう途中、彼の自宅の窓から中に四季本人がいるのを目撃する。

しかし、彼の自宅に入ると中は、もぬけの殻だった。裏口はなく、出ていった様子もない。

果たしてどこに消えたのか、、

そして、裏では楓に忍び寄る影が、、

 

終章 時間旅行をした男

認知症を患いながらも楓の持ちかける謎を解き明かしてきた祖父。

その症状は少しづつ進行しており、幼かった楓との記憶、亡き祖母との記憶を幻視を見ながら語る。

名探偵は最後に楓に何を語りかける?

そして、祖父のもとに最後の来客があり、、

 

感想

 

謎解きや叙述トリック、人間模様、そしてキャラクター設定など全てがバランスのいい作品だと感じました。

世の中のできごとは物語だと語る祖父。

真相を語るときには、決まって煙草をもらい、その紫煙の中に真相を見るレビー小体型認知症の祖父。

「謎が解けた」や「真実がわかった」ではなく真相を語る前のセリフは決まって「絵が見えた」なのです。

名探偵の祖父と孫の楓の謎解きは、論理性、説得力も去ることながらどこか温かみがあり、物語の絵が見えたと語る、祖父の人間味こそがこの作品の魅力なのではないかと思います。

「DLBはね、、あらゆる病気の中で、唯一、時間旅行が可能な病気なんです。」(引用)

 

素敵だと思いませんか?

束の間ですが、辛い現実を忘れ、美しい過去へと時間旅行する。

楓の祖父も幼い頃の楓や、今は亡き妻、娘との思い出を幻視します。

その光景を目の当たりにする楓。

前作では、名探偵である祖父に憧れ、病気になってもそのままでいてほしいと願う楓。

しかし、今作では確実に病気は進行しており症状の悪化が見られる。

そんな祖父の姿に名探偵じゃなくても尊敬する偉大な祖父だという思いを描く楓。

孫の楓の心の機微、そして恋愛模様も少しですが描かれており、ミステリー以外の要素も楽しめる作品で、たいへん満足しました。

 

こんな人にオススメ

 

・認知症患者に接することがある
・読みやすいミステリーが好き
・『名探偵のままでいて』を読んだことがある

ストーリ自体はテンポよく進んでいくので読みやすいと思います。第一章、第二章は序章らしく小さな謎といえるものですが、第三章から膨れ上がっていく展開も見事です。

前作の『名探偵のままでいて』を読んでいなくても十分楽しめますが、読んでいた方が、人間関係やキャラ設定が把握しやすいので、読んでおくことをお勧めします。

『名探偵じゃなくても』ぜひ、読んでみてください。