突然ですがみなさん、魔女と魔法使いの違いはご存知ですか?
童話や架空の話で登場する両者ですが、明確な違いについて考える機会はほとんどないと思います。
ヨーロッパ中世では、魔法使いは魔力をどのように行使したかによって善か悪かが判断されます。一方で、魔女は生まれながらにして世界を穢す存在だとして、その存在自体が悪とされてきました。
では、今回は生まれながらにして悪人は誕生するのかを題材にした小説・五十嵐律人氏著「魔女の原罪」について紹介しようと思います。
著者の五十嵐律人氏は弁護士資格を持つ作家で「法廷遊戯」「六法推理」「幻告」「密室法典」「真夜中法律事務所」など数多くのリーガルミステリーを世に送り出しており、私が好きな作家の一人です。
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あらすじ(帯表紙より)
僕らの通う鏡沢高校には校則がない。ただし、入学式のときに生徒手帳とともに分厚い六法を受け取る。校内のいたるところに防犯カメラが設置されている。髪色も服装も自由だし、タピオカミルクティーを持ち込んだって誰にも何も言われない。すべてが個人の自由だけれども法律だけは犯してはいけなのだ。
法律が絶対視される学校生活、魔女の影に怯える大人、血を抜き取られた少女の変死体。一連の事件の真相と共に、街に隠された秘密が浮かび上がる。
主要な登場人物
和泉宏哉 〜 鏡沢高校二年一組。文芸部所属。週に三回透析治療を受けている。
水瀬杏梨 〜 宏哉とはクラスと部活が一緒。宏哉とともに透析治療を受けている。
宇野涼介 〜 中学二年から宏哉と同じクラスの友人。
久保柚葉 〜 鏡沢高校一年で文芸部所属。宏哉と杏梨の仲を羨ましく思っている。
八木詩織 〜 鏡沢高校二年。女子硬式テニス部窃盗事件の被害者。
柴田達弥 〜 鏡沢高校一年。女子硬式テニス部窃盗事件の犯人。
佐瀬友則 〜 鏡沢高校二年一組担任。元弁護士。
和泉静香 〜 宏哉の母。臨床工学技士。夫・淳のクリニックに勤務。
和泉淳 〜 宏哉の父。医師。透析クリニックを経営。
感想
冒頭でも少し触れましたが、この作品では魔女や魔女狩りといった言葉が出てきます。
魔女狩りとは魔女とされた被疑者に対する訴追や死刑を含む刑罰、あるいは法的手続きを経ない私刑(リンチ)等の迫害を指します。ヨーロッパ中世末の15世紀には、悪魔と契約してキリスト教社会の破壊を企む背教者という新種の魔女の概念が生まれるとともに、最初の大規模な魔女裁判が興りました。(ウィキペディアより)
現代においては、集団の中で犯罪を含む何か悪いことが起きている前提として、反対意見を持つ少数を吊し上げ責め立てたり、誹謗中傷したり、犯人と思しき人物に圧力をかけあぶり出すときに使われる比喩的表現といえます。
魔女狩りと魔女裁判は大まかにいえば同義語として扱われます。
この魔女狩りですが、問題点を挙げるならば疑わしいとされる人物、いわば何もしていないかもしれない(シロ)人物も吊し上げてしまう同調圧力や言いがかりのような事態に発展しかねないところです。
例えば、罪を犯した人間の血縁者や家族も悪とされ誹謗中傷の対象となるのでしょうか?
日本でもテロや無差別殺人、通り魔事件など数多くの被害者を出すような大事件が起こってきました。その加害者や被害者の家族の生活がどうなったのかは想像するに難いですが、新聞や書籍、メディアなどでも多く取り上げられてきました。
加害者家族は世間から注目を浴び、あらぬ疑いをかけられたり誹謗中傷の的になったり、今まで積み重ねてきた信頼、人間関係等が一気に覆されたであろうことは想像がつきます。
しかし、当たり前のことのようですが罪を犯した人間や加害者の家族自身は何も悪くありません。犯罪者の血が流れている、犯罪者の家族は同じく犯罪者といった考えがあっていいはずがありません。
大事なのは、事件が起こった後の被害者家族はもちろん、加害者家族の今後の生活を支える支援体制だと考えます。加害者家族への精神的サポート、また周囲の人間への教育的支援や好奇の目にさらされることへの抑止が必要です。そのようなアフターフォローの体制をしっかり整備することで二次的な悲劇を防ぐことにつながると感じました。
私はこの本のタイトルを見たとき、異世界ものや架空のファンタジー作品のようなストーリーを想像したのですが、設定に特殊性はあれど五十嵐律人さんらしい法律論を駆使した倫理や信仰、そして加害者家族や被害者家族の葛藤などが描かれ現代社会に一石を投じる作品であると思いました。
こんな人にオススメ
・法律や倫理について考えたい
・正義感が強く、間違ったことを放っておけない
・周囲の環境に犯罪被害者、または加害者がいる
法律が絶対視される高校生活、それはその街でも同じことが言えます。
極端なことを言えば、法律さえ遵守すれば何をしてもよく、例えば一人の人間を集団で無視する、困っている人を助けないなど例外はありますが、基本的には法律による処罰の対象にはなりません。
鏡沢高校でも序盤に、ある窃盗事件が起こってしまいます。
警察沙汰にはなりませんでしたが犯人は校内で実名を挙げられ、後に街から追放されてしまいます。
そんな中、宏哉は学校で起こる数々の謎に迫りこの街に隠された秘密にたどり着きます。
そして、透析治療を受ける宏哉と杏梨。存在自体が穢らわしいとされた魔女からタイトルの魔女の原罪と繋がり、その意味が明かされていくところも注目ポイントですね。
舞台設定や構想、伏線から心理描写の全てが一級品のリーガルミステリーで万人にオススメの作品となっております。ぜひ読んでみてください。