田舎暮らしの30代看護師
自己満
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ミステリー

『レモンと殺人鬼』くわがきあゆ 姉妹の真実に迫る

 

 

信頼と裏切りとは表裏一体のようで実はそうではないと私は捉えます。

裏切りとは、自分の固定観念や見えていた部分とは全く異なる部分が見えた時、自分の思っていたその人のパーソナルな部分が覆された時、人はその人に裏切られたと考えます。

一方、信頼とはその裏切りも含めてその人を許容できる懐の深さを示します。

よって、信頼とは裏切りを内包していると私は考えています。

急な持論展開から始まりましたが、本日は裏切りの連続の物語・くわがきあゆ氏著作『レモンと殺人鬼』を紹介していきます。

くわがきあゆさんの他の作品として『復讐の泥沼』も紹介しております。

紹介記事のリンクはこちらをクリック。

 

当ブログでは、なるべくネタバレしないようにあらすじ・感想を書いております。

 

 

あらすじ

 

10年前、父親が通り魔に殺害され母親は失踪。それぞれ別々の親戚に引き取られた姉の美桜と妹の妃奈。

年に数回お互いの近況を報告し合う中、美桜のもとに妃奈の刺殺体が発見されたと連絡が入る。

悲しみに暮れる中、美桜は被害者であるはずの妃奈に保険金殺害を行なっていたのではないかという疑惑がかけられていることを知る。

妃奈の潔白を信じる美桜は、疑いを晴らすべく行動を開始する。

主要な登場人物

 

・小林美桜 〜 本作の主人公。派遣社員として大学の事務職に勤務している。

・小林妃奈 〜 美桜の妹。保険外交員として働いていたが、刺殺体として発見される。生前の恋人への保険金殺害の疑惑がかけられている。

・小林恭司 〜 姉妹の父。洋食レストランを営んでいたが、10年前に通り魔によって殺害される。

・小林寛子 〜 姉妹の母。恭司の死後、姿を消してしまう。

・銅森一星 〜 バルの若手経営者で妃奈の元恋人。交際当時、保険金詐欺に遭いそうになったとインタビューで答える。

・金田拓也 〜 銅森の幼馴染で片腕的存在。

・川喜多弘 〜 妃奈の元恋人。山中で事故死してしまう。多額の保険金がかけられており、妃奈が受取人となっていた。

・桐宮証平 〜 美桜の働く大学の学生。自身が運営するサークルのボランティアをしないかと美桜に持ちかける。

・渚丈太郎 〜 大学の学生。ジャーナリスト志望で自身の勘を確かめるために美桜と行動をともにする。

・佐神翔 〜 10年前、14歳にして恭司を殺害した人物。出所したと姉妹のもとに届く。

感想

 

妹である妃奈を殺害した犯人を捜し出し、保険金殺害の疑いをかけられていることへの真相究明のために姉の美桜が奔走しますが、その中で物語は二転三転四転と動きます。

この人が怪しいな、いや違うのか。じゃあこの人が犯人か、またハズレ。
えっ、まさかのこの人!?、、これも違う。。。

終盤はそんな感じで物語が展開していき、いい意味で揺さぶられました。

作中に張り巡らされている伏線が秀逸で、どれも自然なのが驚きです。

本編ラストの瀧井朝世氏の解説にもあるように物語は終盤の驚きに向けて周到に準備がされており、登場人物が”とってつけた感”がない。「物語のためにこういう人物を作った」のではなく「こういう人物がいた場合、どういうことが起きるか」という視点から話が構築されている。とあります。

さらに要所要所で幼い頃の回想や独白を挟むことによりメリハリが出て、読者はますます罠にハマっていくわけです。
私も序盤から騙されていたことに読み終わる直前まで気づきませんでした。

登場人物のほぼ全員どこかクセがあり、終盤の怒涛の展開によって裏の顔が浮き彫りになっていきます。恐ろしいのは、裏の顔とは私達が都合の良いように捉えている顔のそうでない部分を指すのであって当人からすれば、それは裏でもなく素顔だと捉えていることも少なからず存在するということです。

裏切りとは先入観や固定観念によって見ていたものと違う側面を見せられた時に使う言葉ですが、そういった意味では、作中の美桜は周囲の人間に次々と裏切られます。

各登場人物の造形や心理描写がしっかりしており、裏切りの中にもその行動原理はすべて整合性が取れているため、不自然感が全くありません。

しかし、物語はさらに展開し読者は美桜にも裏切られることになります。

家族を殺され、ずっと虐げられてきたと思っていた彼女が真相を掴むとともに、あるものが覚醒した時は私自身共感はできませんでしたが、レモンのような爽快さと真反対の狂気という相容れない二つのものを感じ、何とも不思議な感覚に襲われました。

こんな人にオススメ

 

・若くして家族を失った経験がある
・自分は虐げられる側だと思う
・責任感が強く、守るべきものがある

10年前に父が殺されて、今度は妹である妃奈の遺体が発見されるところから物語はスタートします。自らを不幸だと感じながらも、妃奈の死の真相を辿る美桜自身と周囲の人間模様がだんだんと浮き彫りになっていきます。

そして、作中には”虐げる側と虐げられる側”といった言葉が出てきます。

ずっと臆病者で何かに怯えるように生きてきた美桜があることがきっかけで秘めていたものを呼び覚ましたり、過去にあった出来事が明らかになった時は狂気と戦慄を覚えました。

そして、美桜や妃奈、犯人を含むほとんどの登場人物が周囲に見せていない顔を見せるトリガーのようなものがあるように感じました。

人の価値観や信念、行動原理は様々です。例えば、守りたいものが脅かされたとき、必死に庇う者、脅かすものに牙を向ける者。
逆風にも立ち向かい変えようとする者、逆風だと諦め、周囲の人間も逆風に巻き込もうとする者。

こんな人が本当にいたら怖いな、ではなく、こんな人が本当にいるかもしれない。心理描写がしっかりしているからこそ、そう思わせてくれる、そんな作品でした。