田舎暮らしの30代看護師
自己満
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ミステリー

『家族解散まで千キロメートル』浅倉秋成

 

「家族とはどういうものか。」という問いに対して、みなさんはどう答えますか?

血のつながりがあり、一つ屋根の下で一緒に暮らしていたら家族と呼べるのか。

では、一緒には暮らしていない親族、新しい家庭を作り家を出ていった子はどうでしょう。

はたまた嫁、婿に来てくれた人は血縁ではありませんが家族と呼べますか。

いかがでしょうか。家族の概念も人それぞれだと思いませんか。

今回紹介するのは家族の在り方について描かれた作品『家族解散まで千キロメートル』です。

著者の浅倉秋成さんは、1989年生まれ。

2012年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。

19年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』が第20回本格ミステリ大賞〈小説部門〉候補、第73回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉候補となります。

21年に刊行した『六人の嘘つきな大学生』は第12回山田風太郎賞候補、「2022年本屋大賞」ノミネート、第43回吉川英治文学新人賞候補となります。

22年に刊行した『俺ではない炎上』は第13回山田風太郎賞候補、第36回山本周五郎候補となります。

その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋の準備をお願いします』『九度目の十八歳を迎えた君と』があります。

当ブログでは、なるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。

 

あらすじ

 

実家に暮らす29歳の喜佐周(きさ・めぐる)。

古びた実家を取り壊して、両親は住みやすいマンションへ転居、姉は結婚し、周は独立することに。

引っ越し3日前、いつも通りいない父を除いた家族全員で片づけをしていたところ、不審な箱が見つかる。

中にはニュースで流れた【青森の神社から盗まれたご神体】にそっくりのものが。

「いっつも親父のせいでこういう馬鹿なことが起こるんだ!」理由は不明だが、父が神社から持ってきてしまったらしい。

返却して許しを請うため、ご神体を車に乗せて青森へ出発する一同。

しかし道中、周はいくつかの違和感に気づく。

なぜ父はご神体など持ち帰ったのか。

そもそも父は本当に犯人なのかーー?

 

 

主な登場人物

 

喜佐周 29歳市役所勤務。恋人の咲穂との結婚を控えている

喜佐惣太郎 喜佐家の長男。会社経営者。現在は実家を出て妻の珠利と暮らしている

喜佐あすな 喜佐家の長女で周の姉。婚約者の賢人を実家に呼び、結婚の報告をしようとしていた

喜佐薫 周たちの母。もの静かな性格で何かと我慢してきた。

喜佐義紀 周たちの父。無職。家にいないことが多く、何かと問題を起こしてきたため、子ども達から煙たがられている。

高比良賢人 あすなの婚約者。美術関係の仕事をしている。長身痩躯のイケメン。40代。

 

感想

 

家族の概念や固定観念をぶん殴られる一冊でした。

家族だからこうするべきだとか、家族ってそういうものだと思う、といった考え方をしがちですが、果たしてそれが正しいのでしょうか。

「概ね大体の人が結婚をする『皆婚社会』のほうが特殊なんです。歴史的に見ても1950年代から70年代の間くらいしか達成されていません。そういう意味では、ですよ。普通に結婚するほうが実は変、と言えるかもしれない」(引用)

男性が働き、女性が家事、育児を率先して行う時代はとっくの昔に過ぎていますよね。

今は未婚も当たり前ですし、結婚しても子を持たない夫婦や同姓婚、別居婚、婚姻関係にはないけど一緒に暮らしている、など生活様式が多種多様になってきました。

正体不明のご神体を返す旅に出かけた喜佐家。

その道中でトラブルに見舞われながらもお互いを愛し、助け合い『家族』という共同体として生きていくという答えに辿り着きます。

 

 

ただ一人を除いては。

助け合い一つの目標に向かっていくことが模範的な家族のかたちであり、常識と呼べるでしょう。

しかし、その呪縛に苦しんでる人間もいて、その人を解放するためのやり方として今回の騒動は妥当なのか

常識に捉われて縛られながら生きることのデメリットばかりに目がいきがちですが、受けてきた恩恵も少なくはないはず。

この犯人が起こした騒動は家族の常識に捉われることのデメリットを避けることに特化した暴論であり極論ともいえると感じました。

こんな人にオススメ

 

・家族が仲が良い、または仲が悪い
・常識に捉われがちだ
・将来、結婚すべきか、独身のままでいるか考えている

前半部分は問題提起から入り、ミステリー要素を含んだ始まり方ですが、中盤から終盤にかけては家族の在り方について描かれておりメッセージ性に富んだ作品となっています。

構成としては、起承転結がハッキリしており、ミスリードと伏線回収が秀逸で読み返すこと間違いなしです。

家族を解体しようとしている人たちが家族のために奔走する、なんとも矛盾した旅路の果てに一家を待ち受ける結末とは?

『家族解散まで千キロメートル』ぜひ読んでみてください。