みなさんはルッキズムという言葉をご存知でしょうか。外見至上主義とも言われており、人間の価値を測る上で「外見」を最も重要な要素とする考え方です。
この考え方自体は古来から存在しており、SNSが普及するまでは特に問題視はされていなかったように思います。
しかし、現代ではSNSの普及により一般人でもメディアに出て、世界中に自身の外見を露出させることが容易になったため、このルッキズムに拍車をかけているにと感じます。
差別や格差を助長しかねないルッキズム。変えていくには一朝一夕にはいかないでしょう。じっくり向き合っていく必要がありそうですね。
本日はルッキズムが題材の物語・岡崎琢磨氏著作『鏡の国』について紹介していきます。
岡崎琢磨氏は1986年、福岡県生まれ。京都大学法学部卒。
2012年、第10回「このミステリーがすごい!」大賞の最終選考に残った『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』でデビュー。
他の著書に『下北沢インディーズ ライブハウスの名探偵』『夏を取り戻す』『貴方のために綴る18の物語』『Butterfly World 最後の六日間』など多数あります。
また、ルッキズムを題材にした小説として他に藤崎翔氏著作の『逆転美人』もあり、当ブログでも紹介しております。紹介記事のリンクはこちらをクリック。
目次
あらすじ(帯表紙より)
大御所ミステリー作家・室見響子の遺稿が見つかった。それは彼女が小説家になる前に書いた『鏡の国』という私小説を、死の直前に手直ししたものだった。
「室見響子、最後の本」として出版の準備が進んでいたところ、担当編集者が著作権継承者である響子の姪に、突然こう告げる。
「『鏡の国』には、削除されたエピソードがあると思います。」
削除されたパートは実在するのか。だとしたらなぜ響子はそのシーンを「削除」したのか、そもそも彼女は何のためにこの原稿を書いたのか、、
その答えが明かされた時、驚愕の真実が浮かび上がる。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いようあらすじ・感想を書いております。
主な登場人物
2063年
室見響子 〜 有名ミステリー作家、2年前に亡くなる。遺作として『鏡の国』を発表。
桜庭怜 〜 響子の姪。響子の小説の著作権を相続した。
勅使河原篤 〜 響子の担当編集者。今日ことは20年の付き合い。
2020年(作中作である『鏡の国』の時代設定)
香住響 〜 アイドルを辞め、「アザーサイド」でウェブライターとして勤務している。「身体醜形障害」を発症。
新飼郷音 〜 響の幼馴染。小学生のとき、顔に火傷を負う。
吉瀬伊織 〜 レストランで働いているコック。「相貌失認」を発症。
久我原巧 〜 響の同僚。兄が行方不明。
注目ポイント
作中作『鏡の国』
亡くなった作家・室見響子の遺作『鏡の国』がメインの話になっております。
現代パートでは2063年、響子の姪・怜は鏡の国には削除されたエピソードがあると担当編集者の勅使河原から告げられます。
なぜ削除されたのかを解明するために作中作という手法をとり、怜が『鏡の国』を冒頭から読み進めていきます。
章が終わるごとに現代パートに戻り、鏡の国を読み終えた終章では勅使河原による答え合わせとラストにもう一捻りあるという展開にになっております。
ルッキズム、精神障害など現代社会への提唱
身体醜形障害の響、小学生の時に顔に火傷を負い、どこか精神的に不安定な郷音、相貌失認の伊織など心に病を抱えて生きる若者たちが描かれています。
身体醜形障害 〜 他人が気にならないような外見上のささいな欠点に異常なほどとらわれることで多大な苦痛を受けたり、日常生活に支障をきたすこと
相貌失認 〜 人の顔が判別できない。髪、身長、声などで判別するしかない。
ルッキズムという見た目重視の世の中だからこその精神疾患と、それに対する偏見や周囲の理解など社会問題への提唱も一つの見どころといえます。
真実を知るとき、物語は反転する
そして、鏡の国を全て読み終えた後に明かされる真実。これまでに感じてきた小さな違和感と伏線の数々。
全てのピースが揃ったとき、まさに反転。作品の印象はガラッと変わります。
あなたには見抜けますか?
感想
鏡の国パートは響子の過去についてほぼノンフィクションで描かれた作品であり、響子や郷音たちが昔起こったある事件を調べていくというミステリー要素があるので、このパートだけでも充分楽しむことができました。
やはり最大の謎は削除されたエピソードについてです。
今作の鏡の国では作中作という手法をとっているので、現代パートの怜と同様、なぜエピソードが削除されたのか読者も同じ気持ちで読むことができます。
そのエピソードについても最後の最後まで明かされないので、一つのミステリーを読み終えた後に、削除されたエピソードについての種明かしともいわんばかりのもうひと展開が待っています。
これが今作の真髄であり、作品を余すことなく楽しむことができると思います。
また、今作では作中に身体醜形障害や相貌失認など見た目に関する精神障害を抱えて生きる若者たちを描いています。いわば、ルッキズムがモチーフです。
アイドルの世界では、美は価値です。美醜を毎日のように人気という形で示されている世界です。
だから、響は自分が醜いと思うようになりました。本当は美しいのにです。
作中の精神科医の言葉が印象に残りました。
いつかは失われるもの、いつかは失われるとわかっているものに、決して自分の一番の価値を置いてはいけないのです。(引用)
美醜がすべてなんて世界は簡単に覆るものではありません。
その世界はどこかで誰かが、今、戦っている世界です。それは戦争という意味ではなく、人気や売り上げなど数字との闘いです。
そして、美醜はその数字に直結している場合が多いものです。
現代においてはルッキズムを否定しても、それは机上の空論ともいえるかもしれません。
しかし、知識を身につけたり啓発することは必要だと感じました。
ルッキズムだけでなく精神疾患についてもです。精神疾患は心が弱いからかかるんだという考えが根強くあり、医療機関を受診できない人が多く存在します。精神疾患に苦しむ人への理解のなさや偏見がそうさせており。受診へのハードルを上げてしまっているわけです。
見た目にはわかりにくい精神疾患と向き合うには根気強さも必要です。ゆっくりで良いので理解を深められるような啓発と生きやすい環境づくりが進められることを願いたいです。
最後になりますが、帯に反転、反転、また反転とありますがこれは決して過剰な煽り文ではありません。
作中作『鏡の国』で反転、読み終えた後の勅使河原との会話で反転、ラストのもうひと展開でまた反転と読み始めからこれまで読んできた物語の印象がガラッと変わるような展開が待ち受けています。
私は途中、そうなんじゃないかなと勘付きましたが、それでも全てのピースがハマり真実が明らかになったときの読了感は凄まじいものがありました。みなさんにもぜひ体験してほしいですね。
こんな人にオススメ
・見た目にコンプレックスがある
・謎解きが好き
・どんでん返しが好き
ミステリー要素がありながらも、身体醜形障害や相貌失認、ルッキズムなど社会問題へのモノローグも描かれており学びの多い作品です。
作中作『鏡の国』を楽しみつつ、削除されたエピソードの謎、そして、ラストに待ち受ける反転と怒涛のクライマックスを堪能ください。
岡崎琢磨氏著作『鏡の国』ぜひ読んでみてください。