人々はごく自然にルールに縛られて生きていると感じます。
ルールを守るということ、それは幼い頃に教育を受け、社会生活を営んでいくうちに育まれていき、大人になってからも向き合わなければならないものです。
大きく言えば法律です。もっと砕けて言うと、交通ルールや会社の規則、家庭内にもルールがあるかもしれません。
みんなで決められ、かつ社会生活の上で合理的なものであれば、そこまで息苦しさを感じませんが、限られた集団の中で理不尽な規律に縛られた生活を想像できますか?
本日は話題のクローズドサークル・ミステリー、夕木春央氏著作「十戒」について紹介していきます。
夕木春央氏は2019年、「絞首商会の後見人」で第60回メフィスト賞を受賞。
同年、改題した『絞首商會』でデビュー。著作に『サーカスから来た執達吏』『時計泥棒と悪人たち』があります。
『方舟』で「週刊ミステリーベスト10国内部門」「MRC大賞2022」第1位を獲得しました。
当ブログでは、『方舟』も紹介しております。紹介記事のリンクはこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いようにあらすじ・感想を書いております。
あらすじ(帯表紙より)
浪人中の里英は、父と共に、叔父が所有していた枝内島を訪れた。島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が残されていた。
”この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる。”
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まった。
注目ポイント
無人島に残された9人
外周約1キロという狭い空間で出会ったばかりの9人が過ごすこととなります。
「十戒」という縛りにより、助けを呼ぶことも自力で脱出することもできません。
疑心暗鬼の中、殺人犯と共に一夜を過ごすことになる関係者たち。
そう、犯人は9人の中にいるのです。
犯人を探してはならない
謎を解いてはならない謎解きのような、縛りのあるミステリーです。
「十戒」という縛りを突きつけてくる犯人。
本当に、犯人を見つけなくていいのか、「十戒」に従うだけでいいのか、、
事件関係者たちの心理描写や推理にも注目です。
3日経てば助かる
「十戒」を守り通せば、3日後には島を脱出できることが約束されています。
しかし、それは犯人も一緒に島を出るということ。
関係者の中に殺人犯が確実にいる。なのに、それが誰だかわからない、、
果たして元の生活に戻れるでしょうか。
そんな葛藤にもぜひ注目してほしいですね。
感想
クローズドサークルという限られた狭い空間において、犯人を探してはならないという設定が斬新で、かつ、心理描写やロジックが秀逸だと感じました。
9人が取り残された島で起こる殺人事件。当然、犯人はその中にいるわけです。
しかし、犯人を探してはならない。十戒を守れば脱出可能という。現実離れした状況が当事者たちを疑心暗鬼の中へと誘います。
「私たちの中に、犯人はいるんじゃないですか。犯人の計画は、それが誰だか分からないようにするってことなんでしょ?」
「計画がうまくいくってことは、私たち全員が、これから、殺人犯かもしれないと思われながら生きていくってことじゃないですか。違いますか?生き地獄じゃないですか。そんなの」(一部引用)
当然の思考です。精神の均衡を保てるはずがありません。
しかし、犯人だけは冷静に淡々と事を進めていきます。犯人を探してはならいと言いつつ、本当にこのまま犯人に従うだけでいいのかと、関係者たちの心理を巧みに揺さぶっていきます。
そして、ラストシーンでは真犯人を突き止めるのですが、事件のロジックが圧巻でした。クローズドサークルという設定ありきの論理ですが、一体いつから仕掛けられていたのかと、ものの見事に騙されてしまいました。
そして、謎が明らかになった後、残り数ページでさらなる展開が待ち受けています。
そこで想像を絶する真相があなたを襲うでしょう。読み終えた後、また序盤から読み直すこと間違いなしです。
こんな人にオススメ
・縛りのあるミステリーが好き
・どんでん返しが好き
・方舟に衝撃を受けた
ネタバレすれすれでいうと、この作品の真髄は謎解きではありません。
ズバリ心理戦です。
犯人は近くにいるのに誰だかわからないという奇妙な感覚に揺さぶられつつ、読み終えた時、こう思うはずです。
一体いつから作者の術中にハマってしまっていたのかと、、
そして、2回目を読むことをお勧めします。そうすると、物語の様相はガラッと変わり、セリフや心理描写の意味合いが深まるはずです。
さらにいうと、『方舟』を未読の方は、先に『方舟』を読む事をお勧めします。
独特の雰囲気が漂いつつも、ラストに襲い掛かる怒涛の展開から目が離せません。
夕木春央氏著作『十戒』ぜひ読んでみてください。