罪を犯してしまった未成年の人間が、その先どうなるか考えたことはありますか?
犯した罪の重さにもよるでしょうが、警察や児童相談所、少年鑑別所、家庭裁判所など様々なところから介入を受け、保護観察になったり、あるいは少年院に入ることになったりするのが一般的でしょう。
もちろん、例外もあるかもしれません。
少年法に基づく理念として、未成年者は周囲の環境に影響を受けやすく、心身ともに未熟であることから罪を犯しても、成人と同様の処罰を科すことは妥当性に欠け、教育的介入により更生へ導いていくとあります。
人格や価値観を形成する時期にある少年にとって周囲に信頼できる大人たちが存在するかどうかが今後の未来への重要な鍵となることは、紛れもない事実であり、この先の社会を考えると決して他人事ではありませんね。
本日は五十嵐律人氏著作『不可逆少年』を紹介します
著者の五十嵐律人氏は1990年岩手県生まれ。
東北大学法学部卒業、同大学法科大学院修了。弁護士(ベリーベスト法律事務所、第一東京弁護士会)。
『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞を受賞し、デビュー。
他の著書に『原因において自由な物語』『六法推理』『幻告』『魔女の原罪』があります。
また、当ブログでは『魔女の原罪』も紹介しております。記事のリンクはこちら
当ブログでは、なるべくネタバレの無いようにあらすじ・感想を紹介しております。
あらすじ(裏表紙より)
狐の面をつけた少女が、監禁した大人を次々に殺害する事件が発生した。
凶器はナイフ、トンカチ、ロープ、注射器。常軌を逸した犯行は、ネット上で中継された。
彼女は十三歳の「刑事未成年」で、法では裁かれない。
「だから、今しかないの」ー。
ミステリー界の話題をさらったデビュー作『法廷遊戯』に続く衝撃作!
主要な登場人物
瀬良真昼 〜 家庭裁判所の若手調査官。
早霧沙紀 〜 瀬良の上司で主任調査官。神経犯罪学という専門分野の研究も行っている。
雨田茉莉 〜 女子高生。狐の面の少女に父親を殺された。
佐原漠 〜 茉莉の同級生。野球部で寮生活をしている。狐の面の少女に父親を殺された。
佐原砂 〜 漠の兄。美容師を志し専門学校に通っていたが、ある事件がきっかけで指先の自由が効かなくなる。
神永詩緒 〜 大人たちを拘束し殺害していった狐の面の少女。
神永奏乃 〜 狐の面の少女の姉で茉莉と漠の同級生。
感想
冒頭から前半部分にかけては、狐の面の少女が起こす事件(以下、フォックス事件)と瀬良の仕事に対する考え方などがそれぞれ別の視点で同時進行に描かれますが、中盤から後半にかけては物語の様相を変えていきます。
特に、フォックス事件の犯人が早々に明らかになる展開には驚きました。
犯人は誰かではなく、どうしてそんなことが起きたのかに焦点を当てつつ、物語の視点を変えながら少しづつ謎を散りばめていくことで物語がどのように進んでいくのか楽しみながら読むことができました。
そして、随所に散りばめられた謎も後半に一気に回収されて、著者の構成力や表現力には圧倒されてしまいました。
「やり直せるから、少年なんだよ」(引用)
心身ともに発展途上の少年には、教育的手段を用いて促すのが効果的で、社会的にも利益になるという少年法の理念を表す言葉であり、瀬良が面談した少年にかけた言葉です。
しかし、現実はそうはいきません。
やり直せなかった少年も少なからず存在し、神経犯罪学を研究する早霧はそれを「不可逆少年」と呼んでいます。
私も少年全てがやり直せるとは言い切れないと思います。
なぜなら、脳の一部の機能が欠損したり、先天的に共感性や社会性に欠ける人間は一定数存在すると思うからです。
しかし、それらを更生に導く社会の仕組みを作ることは必要だと感じます。
少年自身が自分を見つめ直し、可能性を信じ、周囲の大人たちも社会的要因を排除し、少年の可能性を信じ、真摯に向き合い介入し続けるというプロセスが重要だと感じました。
こんな人にオススメ
・少年時代に非行に走ったことがある
・教育関係など、子どもと接する職に就いている
・リーガルミステリーが好き
少年法や不可逆少年、神経犯罪学など初めて聞く言葉が並びますが、用語説明も作中でしっかりされているので読みやすい作品ですし、その辺りはさすがリーガルミステリーの名手・五十嵐律人さんだなと思いました。
個人的には『法廷遊戯』と同様、映画化もされてほしい作品だと感じました。
表紙の狐の面の少女が印象に残りやすいですが、それ以上の謎が待ち受けています。
『不可逆少年』ぜひ、読んでみてください。