今回紹介するのは呉勝浩さん著作の『法廷占拠爆弾2』です。
呉さんの作品を読むのは『スワン』『爆弾』に続いて3作目。
前作の『爆弾』が大変面白く、今作はなんとその続編ということで発売を楽しみにしていた作品です。
著者の呉勝浩さんは、2015年『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。
2018年『白い衝動』で第20回大藪春彦賞、2020年『スワン』で第41回吉川英治文学新人賞と第73回日本推理作家協会賞を受賞しています。
そして、2022年『爆弾』で「このミステリーがすごい!2023年版」国内編で第1位に輝いています。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いようあらすじ・感想を書いております。
あらすじ
東京地方裁判所、104号法廷。
史上最悪の爆弾魔スズキタゴサクの裁判中、
突如銃を持ったテロリストが立ち上がり、法廷を瞬く間に占拠した。
「ただちに死刑囚の死刑を執行せよ。」
「ひとりの処刑につき、ひとりの人質を解放します」
前代未聞の籠城事件が発生した。
スズキタゴサクも巻き込んだ、警察とテロリストの戦いが再び始まる。
主な登場人物
柴咲奏多 法廷占拠の実行犯。父親がタゴサク事件で死亡し、遺族会に加わっていた。
新井啓一 元オレオレ詐欺のかけ子。柴咲とともに犯罪計画を立てる。
スズキタゴサク 死者98名、重軽傷者500名超を出した、爆弾事件の容疑者。他人から怒りなどの強い感情を向けられることを好む。その中年おじさんな見た目に反し、思考能力が高く、他人の感情を操ることに長けている。
倖田沙良 前作の爆弾事件の際、捜査していた巡査。この事件で同僚の矢吹が重傷を負い、怒りのあまり取調室に乗り込み、タゴサクに銃を突きつけた経験もある。今作では証人として公判に出廷し、法廷占拠に巻き込まれる。
伊勢勇気 野方署の刑事。倖田と同じく証人として出廷。前作では、取り調べ中にタゴサクに操られ、矢吹が重傷を負う遠因を作った。
高東柊作 警視庁の刑事。特殊犯捜査第一係の係長で、スズキタゴサクを取り調べた清宮の後任。
猫屋 高東の部下。特殊犯係配属2年目
類家 前作の爆弾事件でタゴサクを取り調べた清宮の部下であり、実質的な取調べ担当官。類まれなる思考能力をもつ。爆弾事件の後で実質的な謹慎処分を受けていたが、法廷占拠事件で犯人と交渉する高東の補佐に入る。
猿橋忍 杉並署刑事。前作では倖田沙良と一緒に爆散捜索に奔走した。その厚みのある体格から、倖田は密かに「ラガーさん」と読んでいる。
矢吹泰斗 前作の爆弾事件の捜査中に爆破に巻き込まれ、倖田の目の前で片足を失う重傷を負う。そのケガから、刑事としての復帰は難しいと思われていた。
湯村 タゴサク事件の遺族会に属する男性。遺族会で柴崎と出会い、親しくなる。
感想
前作『爆弾』の面白さの裏には、スズキタゴサクの不気味で狂いに狂った悪と、それに翻弄されながらも抗う警察、というシンプルな構図があり、タゴサクという強烈な毒や、クセの強い警察官たちが光っていたように感じます。
法廷占拠の犯人も相当に賢いし、しっかりと策を弄し警察という組織に挑みます。
そして、少しずつ犯人の真の目的が明らかにになる、という謎解き部分は面白かったと思います。
しかし、辛口かもしれませんが、前作を超えるものではなかったというのが正直なところです。
その理由にテロリスト、タゴサク、警察、という三つ巴の戦いになり、それぞれのバランスが取れすぎていて活躍が薄まってしまったことが挙げられます。
どこか一つを尖らせるか、いつの間にか2対1の構図になるような展開を作った方がもっと引き込まれていったように感じました。
そして、今作では、タゴサクのカリスマ性(悪の)を損なわずに、かつ占拠犯の知能の高さも描写した結果、警察の対応が後手にまわり、無能になってしまうという事態になってしまいます。
この構図は、前作とあまり変わり映えがありません。
警察が組織という檻の中で葛藤しながら犯人に翻弄されながら、苦肉の策を講じ、必死に抗う姿は顕在でしたが、二番煎じのようにも感じました。
もう少し、新しい展開も欲しかったというのが正直な感想です。
しかし、今作は犯人が人質も取っており、そこから生まれる物語の厚みと予測のつかない緊張感があり、一気に読んでしまいました。
こんな人にオススメ
・『爆弾』を読み終えている
・警察ものが好き
前作の爆弾を読んでいた方が楽しめます。
今作も前作と同じ警察のメンバーが多数登場します。
両者のやり取りは一つのミスが命取りになるような最高潮の緊張感があります。
そして囚われたスズキタゴサクは一体何をするのか。
不気味な雰囲気を漂わせながら、緊迫の舞台がここにあります。
『法廷占拠爆弾2』ぜひ読んでみてください。