絵というものは時としてその人の深層心理を表します。
病院の精神科に勤める私は、患者さんに絵を描かせる心理テストを見たことがありますが、患者さんが描く絵は非常に興味深いものがあります。
今回はとある複数枚の絵を題材にしたスケッチミステリー・雨穴氏著作『変な絵』について紹介していこうと思います。それでは早速、本編へ移りましょう。
当ブログでは、雨穴氏の他の作品として「変な家」も紹介しております。紹介記事のリンクはこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレしないようにあらすじ・感想を書いております。
あらすじ
とあるブログに綴られた五枚の絵。行方不明となった男児の描いた奇妙な絵。山中で殺害された美術教師の最期に描いた絵。そして、物語の発端となった最初に描かれた一枚の絵の秘密。全ての絵の謎が明らかとなったとき、見えてくる驚愕の真実とは!?
第一章 風に立つ女の絵
大学生の佐々木修平はオカルトサークルの後輩である栗原に変なブログの話を聞く。
「七篠レン 心の日記」一見すると普通のブログだが、読んでみると不気味な点に気づく。
約1年半前の最新記事の文章にでてくる『一番愛する人』『3枚の絵の秘密』『あなたが犯してしまった罪』、、、
これらの言葉の意味を解くため、佐々木は過去の記事を遡るが、そこには次々と不可解な絵が出てきて、、、
第二章 部屋を覆うもやの絵
今野直美は5歳の優太を保育園へ迎えにいくと、担任の先生に呼び出される。
優太が保育園で描いた絵についてである。その絵は微笑み隣り合う女性と子。
そして親子が住んでいるマンション。だが、住んでいる部屋が灰色のもやで覆われていた。
そして、直美と優太に迫り来る不穏な影、、、
第三章 美術教師 最期の絵
とある山中で男性の遺体が発見された。被害者は三浦義春41歳。高校の美術教師であった。殺人事件として捜査が開始される中で、現場には三浦が描いたと思われる絵が残されていた。
それは山中の風景と思われる絵でレシートに描かれており、補助線までついている。そして、普段の三浦の描く絵と明らかにタッチが違う、、
その絵は誰のために、そして何のために残されたのか、謎に迫る、、
最終章 文鳥を守る樹の絵
11歳にして母親を殺害した少女が描いた絵、、、
「人間」「木」「家」それぞれの絵から導かれる少女に人間性。
そしてクライマックスに待ち受ける衝撃の展開、、、
感想
この作品では、11歳の少女が描いた一枚の絵について、心理学者が描画テストという方法を用いて、描いた人の心理を分析するというところから始まります。
全四章からなる物語で、それぞれの章にキーとなる絵があり、一章完結ではなく全てに繋がりがあります。全ての絵の謎が解けた時、最終的に綺麗にまとまる絵解(と)きミステリーとなっています。
謎の絵という視覚的要素を取り入れながら読者を思い込ませていくミスリード、犯罪者心理やそこに至るまでの細かな心理描写とそれを一本のストーリーとして成立させる構成には脱帽しました。
犯人の心理に関しては共感できる部分もあるが、やりすぎ感は否めません。何かを守りたい保護愛・慈愛は人それぞれに存在するかもしれませんが、攻撃性・残虐性と表裏一体となってはいけません。人は何かを守りたいが為に残虐的・攻撃的になってはいけないと思うからです。愛するが故の狂気・執着といったものが刷り込まれてしまう、そんな作品でした。
こんな人にオススメ
・既存のミステリーに飽きてきた
・ビジュアルから紐解くのが好き
・ホラー要素が好き
ある一枚の絵から始まり、それぞれの章にキーとなる絵があります。その全ての謎に迫るスケッチ・ミステリーとなっています。随所で絵について解説をしてくれるので冒頭に戻って読み返すといったことが少なく、サクサクと読めてしまいます。途中の絵の謎が解けた時のゾクゾク感や犯人の狂気・残虐性には鳥肌ものです。そういったものが苦手でなければ、ぜひお勧めしたい作品です。