田舎暮らしの30代看護師
自己満
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ミステリー

『方舟』夕木春央 ラストに待ち受ける驚愕の展開 

 

突然ですがみなさん、狭いところや密室、閉鎖空間はお好きですか?

好きな方はあまりいないと思います。

看護師である私は学生時代、感染対策で隔離された患者の体験をする授業があったのですが、息苦しさや不自由さ寂しさを感じてしまい何日も閉じ込められると気が狂いそうだなと思いました。

というわけで今回は密室空間で起こる悲劇。クローズドサークル・ミステリーである夕木春央氏著作『方舟』を紹介しようと思います。

 

夕木春央氏の他の著作として、当ブログでは『十戒』も紹介しております。紹介記事のリンクはこちらをクリック。

 

当ブログでは、なるべくネタバレの無いようあらすじ・感想を書いております。

 

あらすじ

大学時代の友達である裕哉の誘いで長野県の別荘に集まった男女7人。興味本位で謎めいた地下建築に入ることとなる。不穏な空気が漂う中、散策を続ける一同であったが突然の地震に見舞われ中に閉じ込められてしまう。

脱出する方法はただ一つ。だが、それには一人を犠牲にしなくてはならない。

地下3階からは浸水してきており、タイムリミットは一週間。それ以内に犠牲者を一人決めなければならない。

誰もが冷静ではいられない中、ついに殺人が起きてしまう、、、

 

 

主要な登場人物

・越野柊一 〜 システムエンジニア。本作の語り手。

・篠田翔太郎 〜 柊一の従兄。

・西村裕哉 〜 アパレル勤務。集まりの発起人であり、地下建築に入ろうと提案した人物。

・野内さやか 〜 ヨガ教室の受付勤務。

・高津花 〜 事務職。

・絲山隆平 〜 ジムのインストラクター。後述する麻衣の夫。

・絲山麻衣 〜 幼稚園の先生。隆平の妻。

・矢崎幸太郎 〜 電気工事士。一家で地下建築に迷い込んでしまったと話す。

・矢崎弘子 〜 幸太郎の妻。

・矢崎隼斗 〜 矢崎夫妻の息子。高校一年。

感想

 

密室空間で事件が巻き起こるいわゆるクローズドサークル・ミステリーです。タイムリミットもあり緊迫感が読んでいて伝わってきました。
不穏で謎めいた薄暗い地下建築の中に閉じ込められ、殺人事件が起こるという状況の中で明晰な推理で犯人像を絞り込んでいく柊一や、行動をともにする周囲の人間、そして犯人の全員が冷静に振る舞っていたのは、逆に恐怖を感じました。

殺人という罪を犯したのだから、その人が犠牲になればいい。少なくとも犯人以外はそう思っていました。しかし、それは犯人とはいえ、一人を見殺しにすること。いわば殺人という罪を犯すのと同等なのではないか。そんな葛藤が刻々と迫るタイムリミットへの緊張感、不安とともに伝わってきて作品の世界観に引き込まれてしまいました。

犯人の動機が最後まで分からずにいました。公平にくじで犠牲者を決めるなら、母数は多い方が良いのは明白。殺人を犯した犯人という共通の敵を作り、何らかの形で誰かに罪をなすりつけ、犠牲になってもらい自分が助かる。動機はそういったことなのかと思っていました。

しかし、ラストの12ページで物語は反転します。

犯人の生への執着、恐るべき動機、そして犠牲者を選ばなければないない葛藤が見事に蹂躙されます。この閉鎖的で普通でない状況の中、ここまで冷静に思案して計画的に犯行に及ぶことのできる犯人の姿は鳥肌ものです。

こんな人にオススメ

・どんでん返しが好き
・読みやすい小説が好き
・殺人描写が苦手ではない

登場人物が限られており、関係性もシンプルで会話が多く展開も早いので、飽きることなく読むことができると思います。そして、全てが覆るラストシーンは必見です。
殺人事件が起き、その方法も残虐な描写が含まれているので、そういった表現が苦手な方にはオススメはできないですね。