みなさんは自分の体が勝手に夜中に出歩くとしたらどう思いますか…?
そして、朝目覚めると夜中の出歩いた記憶が全くないとしたら、、
昼の私と、夜の私
決して交わることのない2人が、大切な人の為に真実を求め奔走する。
人間というものを表裏から描きつつ、そこはかとなく、切なく優しい気持ちが残る素敵なミステリー。
今回、紹介するのは辻堂ゆめさん著作『二人目の私が夜歩く』です。
著者の辻堂ゆめさんは、1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。
第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。
『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞受賞。
他の著作に『山ぎは少し明かりて』『十の輪をくぐる』『僕と彼女の左手』『サクラサク、サクラチル』『あの日の交換日記』などがあります。
『サクラサク、サクラチル』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
『あの日の交換日記』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。
あらすじ
夜って、いいよね。人の本質が、見える時間。
昼と夜で、一つの身体を二人で共有すると咲子。
姉妹のような、親友のような関係を築いていたが、「昼」の終わりによって予想だにしない「夜」の真実が顔を覗かせはじめる。
果たして、彼女たちが「最期」に見たものとはー。
主な登場人物
鈴木茜 大学受験を控える高校生。幼い頃に交通事故で両親を亡くし、現在は祖父母と暮らしている。祖母の知り合いを通じて「おはなしボランティア」で咲子と知り合う。
厚浦咲子 「おはなしボランティア」で茜と知り合った女性。茜とは年齢がひとまわり離れている。昔、交通事故に遭い寝たきりとなってしまい、人工呼吸器を装着している。途切れ途切れに会話が可能で、茜と会うのをいつも楽しみにしている。
鎌田朋哉 咲子に高校の先輩であり、元恋人。咲子が事故に遭った当日、会う約束をしていたが、事故に遭ってしまいそのまま見舞いにも来ず、音信不通となっていた。
保谷奈々恵 咲子の親友。朋哉と同様、咲子が事故に遭った当日、会う約束をしていたが、事故に遭ってしまいそのまま見舞いにも来ず、音信不通となっていた。
感想
「昼のはなし」と「夜のはなし」の二部構成となっており、「昼のはなし」では、主に茜の視点からそれぞれの表の部分、人間の優しさについて描かれており、「夜のはなし」では、一転して咲子の視点で、人間の脆さや感情の複雑さについて描かれています。
この昼と夜というのがこの物語の真髄です。
大きく分けると昼と夜ですが、表と裏、白と黒、光と影など人間の二面性を表す、いわゆるメタファーとしての細かい描写が散りばめられておりました。
そして、この物語の背景として切り離せないある重要な真実。
それが、ある時姿を変えて読者の前に現れます。
本当の被害者と加害者はどちらだったのか。
その真相に辿り着くまでの緊迫感がたまりませんでした。
「だって、みんなが私を、ちやほやするんだもん。・・(中略)すごく綺麗で、優しい世界。そんなところに黒いものは、投げ込めない。」(引用)
彼女の黒い本音が矢継ぎ早に吐き出され、私にぶつかって空気中に散乱していく。
「夜って、いいよね」「人の本質が、見える時間。つい、隠すのを忘れちゃう。」(引用)
人は誰しもどこか取り繕って、程よく適当に生きているものです。
裏表のない人も確かにいるのかもしれません。
しかし、それは光に当てられていない黒いシミのような、その人自身でも見えていないような本質が隠れているだけなのかもしれません。
そんなわずかな人間の本質までも浮き彫りにしてしまうような物語の世界観。
前半と後半で物語が反転してしまう構成、随所に散りばめられた伏線やミスリード。
そのどれもが綺麗に収まっており、作品の美しさに魅了されました。
そして、極め付けはみるみるうちに剥がされていく人間の本質と、そこにあった二つの真実。
果たして、それらは咲子に救いをもたらしたのか。
おそらく、読者によっては解釈が異なるのではないかと思います。
ぜひ、みなさんの目で確かめてください。
こんな人にオススメ
・自分は裏表があると思う
・今の自分に何かしらの不満がある
・人間関係に悩むことがよくある
私自身、辻堂ゆめさんの作品は『二重らせんのスイッチ』を読んだことがあるのですが、物語が進むにつれ、少しずつ真実が明かされていく展開がどこか似ており、他の作品も読みたくなりました。
辻堂ゆめさんのファンの方はもちろん、読んだことない方も幅広い層に読んでほしい作品だなと思いました。
『二人目の私が夜歩く』ぜひ、読んでみてください。