犯罪者たちの楽園なんてあったらどう思いますか?
犯罪者たちが野放しになっている時点でアウトですし、次なる犯罪が起きるかもしれないし、楽園ということは犯罪者一人ではなくいくつかの集団が存在してそうで何だか不穏な感じですよね。
しかし、そこに興味があるのも事実。犯罪者にとってそこは夢のような場所なのか、はたまた悪夢のような場所なのか、、、
本日は犯罪者が集うホテルで起こる事件を描いた特殊設定ミステリー・方丈貴恵氏著作「アミュレット・ホテル」を紹介しようと思います。
方丈貴恵氏は1984年兵庫県生まれ。京都大学卒。在学時は京都大学推理小説研究会に所属。
2019年、「時空旅行者の砂時計」で第29回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。
続く長編「孤島の来訪者」は、「2020年SRの会ミステリーベスト10」第1位に選出、長編三作目となる「名探偵に甘美なる死を」は第23回本格ミステリ大賞の最終候補となるなど、本格ミステリの新鋭として注目されています。
当ブログはなるべくネタバレの無いようあらすじ・感想を書いております。
目次
あらすじ(帯表紙より)
殺し屋、詐欺師、窃盗グループの皆様、、
犯罪者御用達ホテルにようこそ。
アミュレット・ホテルは2つのルールさえ守っていただければ、どんなサービスでもご提供できます。
偽造パスポートでも、グレネードランチャーでも、ルームサービスでお申し付けください。
ただし、ルールを破った方には、それ相応の対価を支払っていただきます。警察に通報したりはいたしません。
我がホテル探偵は優秀ですから。秘密裏にきっちり処理させていただきます。
1、ホテルに損害を与えない
2、ホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさない
ルールを破ったらホテル探偵が必ずあなたを追い詰めます。
Episode 1 アミュレット・ホテル
ホテル探偵・桐生はオーナーの諸岡からの電話を受け、ホテル別館11階・1101号室へ駆けつけた。
そこには宿泊客の絞殺された遺体があり、現場は騒然としていた。
さらに現場となった一室は完全密室だったという。
この難事件に桐生はどう挑む、、
Episode 0 クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人
アミュレット・ホテルの宴会場は騒然となった。
クライム・オブ・ザ・イヤーの受賞式の最中に、選考委員の一人が悶え苦しみ出したのだ。
男の名は明石。犯罪業界で誰よりも恨みを買っている男だ。
やがて死亡宣告がされ、現場の状況からある一人に疑いの目が向けられる。
その名は殺し屋「エレボス」、、
Episode 2 一見さんお断り
窃盗グループ「ケルベロス」の一員としてスリを働く瀬戸博貴。
幼馴染のアリアのため、騙し取られた本革のキーホルダーを取り返すべく山吹を追っていた。
アミュレット・ホテルに入っていく山吹の後を追う瀬戸だが、非会員であるため追い返されてしまう。
意を決してホテルへの潜入を試みるが果たして、、
Episode 3 タイタンの殺人
犯罪業界のトップクラスの人間で構成される「ザ・セブン」。
そのメンバーが一堂に会する会議がアミュレット・ホテルの一室で行われた。
しかし、会議の最中メンバーの一人が殺されてしまう。
ホテル探偵の桐生は事件解決のため動きだすが、オーナーの諸岡は5年前のある事件を思い出していた。
その事件は決して開けてはならないパンドラの箱で、、
感想
犯罪者だけが宿泊できる会員制のホテル。ルームサービスで偽造パスポートも毒薬も銃器も取り寄せ可能。日本の法は無視され、警察の介入もありません。
もし、事件が起きてもホテルの内部で処理され、死体が出た場合、骨さえ残らないほど焼却してしまいます。
1、ホテルに損害を与えない
2、ホテルの敷地内で傷害、殺人事件を起こしてはならない
以上のルールが課せられているのですが、それでも殺人事件は起きてしまいます。
それを解決するために動くのがホテル探偵・桐生です。
このような「特殊設定」ならではの謎や動機、トリックがあり、伏線やミスリードが秀逸で驚かされました。
殺人禁止の箱の中に犯罪者が集い、自身の犯行であることは隠したいのですが、事件の発覚自体は隠す必要がありません。
いわば誰が犯人でもおかしくない状況です。まず、前提そのものが一般に起こる殺人事件とは異なるわけです。
こういった特殊な状況下でしか生まれない謎や伏線が自然に仕込まれています。
Episode 1では序章に相応しく、アミュレット・ホテルの性質やホテル探偵の振る舞いなどが密室殺人というミステリーにはありがちな設定のもと描かれています。
密室トリック自体は序盤で解けるのですが、事件の謎を解き明かしていくうちに密室にする必要性がないことに気づきます。
そこには特殊設定ならではの意味づけが存在します。
Episode 0ではホテル探偵・桐生の過去、ホテル探偵誕生のエピソードが語られます。
「・・ここで殺人事件が起きても、ホテル主導のゆるーい調査が行われるだけですからね?」
「・・その脆弱性を突こうとする犯罪者が現れても、おかしくはないと思いますが」
Episode 2より一部引用
ここで読者は特殊設定をようやく理解し、物語の真髄に引き摺り込まれていきます。
そして、Episode 2,3と続くわけですが、それぞれ視点や事件の様相が変わるので飽きることなく読むことができましたし、物語の世界観にぐいぐい惹きつけられました。
こんな人にオススメ
・既存のミステリーに飽きてきた
・推理するのが好き
全四章からなる短編ミステリー集です。
二話目を読むうちに、この話は過去に遡るんだなと思って読んでいたら堂々とEpisode 0と書かれていることに気づきませんでした。
特に伏線回収やミスリードが秀逸な作品です。
普通の謎解き事件ではなく、ややエンタメ性のある特殊設定のミステリー作「アミュレット・ホテル」ぜひ読んでみてください。