田舎暮らしの30代看護師
自己満
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フィクション

『赤い月の香り』千早茜 唯一無二の香りを作る天才調香師

 

香りというのは人の持つ個性であり、特徴とも言えます。

相手によっては好き嫌いが分かれることでしょう。万人受けする香りも存在するかもしれませんが、数は少ないと思います。

香りは脳に直接働きかけると言われています。その働きかけによって様々な感情や記憶、欲望をを呼び覚ますトリガーとなりうるかもしれません。

では、香りを自在に操りトリガーを押すも押さぬもコントロールすることができる人間がいたらどうでしょう。

本日は、どんな香りをも再現することができる天才調香師の物語・千早茜氏著作「赤い月の香り」を紹介しようと思います。

この本を読もうと思ったきっかけは前作の「透明な夜の香り」が好きだからです。

天才調香師・小川朔の操る香りを丁寧に描いた前作の世界観にすっかり魅了されました。今作はその続編とも言える作品ですが、今作から読み始めても問題はありません。

 

当ブログでは、千早茜さんの他の著書である『マリエ』も紹介しております。紹介記事のリンクはこちらをクリック

あらすじ(帯表紙より)

 

カフェでアルバイトをしていた朝倉満は、客として来店した小川朔に自身が暮らす洋館で働かないかと勧誘される。

朔は人並み外れた嗅覚を持つ調香師で、幼馴染みの探偵・新城と共に依頼人の望む香りをオーダーメイドで作っていた。

満は朔のもとで働くうち、やがて仕事に誘われた本当の理由を知り、、、

 

当ブログは、なるべくネタバレの無いようにあらすじ・感想を書いております。

 

 

 

主要な登場人物

 

朝倉満 〜 本作の主人公。カフェでアルバイトをしている青年。仕事中に客として来ていた朔に声をかけられ、洋館で働くことになる。朔曰く、いつも強い怒りの匂いがしたとのこと。過去にある秘密があるようだが、、

 

小川朔 〜 どんな香りでも再現できる天才調香師。古い洋館で香りのサロンを営み、依頼人からこんな香りを作ってほしいといった依頼を受け、オーダーメイドで提供している。年齢は不詳だが見た目から二十代後半から三十代前半。人並み外れた嗅覚の持ち主で、人の怒り、悲しみといった感情から体調の変化までも香りで読み取ることができる。

 

新城 〜 朔と幼馴染みの男性。自身は探偵を生業としており朔の依頼人と顔を繋いだり、身辺調査をしている。職業柄か、いつも黒ずくめの服装をしており口調が荒く、女好きで愛煙家。

 

源さん 〜 朔の古くからの知人で、広大な洋館の敷地にある庭園で様々な植物を栽培している初老の男性。その敷地と洋館の持ち主で、かつて依頼する香りを朔に作ってもらったことがある。

 

若宮一香 〜 朔と面識があり、洋館を出入りする女性。朔が作る香りの小瓶に貼るラベルを作成している。朔に特別な思い入れがあるよう。

 

感想

 

前作の「透明な夜の香り」に続く第二部ということで期待していましたが、期待を大きく上回る作品と出会ってしまいました。

今作でも少々癖のある依頼人からの香りを忠実に再現する朔。そこから紐解かれる依頼人の真実だったり、朔の人間性や今回は源さんの過去も明かされます。

そして、満の過去の秘密が少しずつ明かされていきます。

前作同様、擬人法やメタファーを巧みに操り、香りによる心の機微を丁寧に捉えた作品だと感じました。

タイトルにもある赤い月とはどのような意味があるのでしょうか。

どこか神秘的な印象を持つ月ですが、新月・三日月・半月・満月といった満ち欠けから、心の移り変わりや成長をイメージするようです。西洋では、月は人間を狂気に引き込むとも考えられています。

赤という色の持つイメージはどうでしょう。

燃える炎や吹き出す血液、停止信号とどこか激しく危険なイメージです。

では、なぜ赤い太陽ではなく赤い月なのでしょうか。

月は「陰・静・女性原理」なのに対し、太陽は「陽・動・男性原理」と言われています。満月や新月に動物の産卵や民族の出産が増えるといった言い伝えもあるようです。

赤い月が追いかけてくると満は作中で言っています。その赤い月とはまさに満の持つ記憶や感情、取り憑かれている存在のメタファーですね。

その意味がわかるラストシーンでは、月に例えられる満の心の成長も捉えられています。

どこかミステリアスで鎮静的な蒼白な月のイメージを持つ朔と感情的で危険な赤い月の香りを纏った満の対比や、一香との繋がり、記憶、空気感など目には見えないものをこれでもかと丁寧に描いており、まるで香りに触れているような感覚に陥りました。

 

こんな人にオススメ

 

・香りにより感情を動かされやすい
・神秘的、ミステリアスだとよく言われる
・鼻が効き人や場所、物の香りをよく気にする。

香りは欲望そのものだと朔は言います。

人の感情や記憶を呼び覚まし、人を動かすこともでき、時として人をダメにすることもある。そんな香りの持つ不思議な魔力を巧みに操る天才調香師・朔。

満曰く、透明で無機質な香りを纏う朔。その香りを満はなぜ欲しがったのか。

この物語の真髄は、目に見えない香りとそれに動かされる人物の心の機微を表現しきっているところにあると感じ、読むことによって心が浄化され、何色にも変えられる香りが織りなす不思議な世界観に引き込まれてしまいました。香りを気にする人もそうでない人もこの世界観に浸ってほしいですね。おすすめの一冊です。