田舎暮らしの30代看護師
自己満
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ミステリー

『籠の中のふたり』薬丸岳 感想

 

今回紹介するのは、薬丸岳さん著作『籠の中のふたり』です。

著者の薬丸岳さんは、1969年兵庫県生まれ。

2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。

他の作品として『刑事弁護人』『ブレイクニュース』『告解』『友罪』『罪の境界』などがあります。

今作の『籠の中のふたり』は、二人の男が過去、そして罪と向き合っていく物語です。

通り魔事件の被害者がその事件の謎を追う『罪の境界』や轢き逃げ事件を起こしてしまった青年の苦悩を描いた『告解』といった作品を発表している著者だけに、重いテーマを突き付けてくる内容かと思われるかもしれません。

本作も深いテーマを内包していますが、意外にもユーモアを含んだ描写もあり、温かい読み心地の人間ドラマとなっています。

『告解』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。

『罪の境界』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。

当ブログでは、なるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。

あらすじ

 

父親を亡くしたばかりの弁護士・村瀬快彦は傷害致死事件を起こした従兄弟の見介の身元引受人となり、釈放後に二人は川越の家で暮らし始める。

小学6年生のときに母親が自殺し、それ以来、他人と深く関わるのを避けてきた快彦だったが、明るくてお調子者の亮介と交流することで人として成長していく。

だが、ある日、母が結婚する前に父親の安彦に送った手紙を見つけ、衝撃の事実を知る。

母は結婚前に快彦を妊娠していて、快彦に知られてはならない秘密を抱えていた。

そして、出生の秘密は亮介の傷害致死事件とも繋がっていく。

二人は全ての過去と罪を受け入れ、本当の友達になれるのか。

 

主な登場人物

 

村瀬快彦 本作の主人公。弁護士。幼い頃に母が自殺し、その後父は病死。母の死後、人と距離を置いて生きてきた。ある時、従兄弟の亮介の身元引受人となり、一緒に暮らすこととなる。

蓮見亮介 快彦の従兄弟。傷害致死事件を起こし、服役中だったが刑期を終え、釈放となる。その際、快彦が身元引受人となり一緒に暮らすこととなる。明るく、人と壁を作らない性格。

白鳥織江 快彦の元恋人。看護師。

小泉洋一郎 快彦の小学校の同級生。グリッパーというカフェバーを営んでいる。快彦以外にも同級生が集まったり、亮介とも意気投合する。

吉本清美 快彦の同級生。夫からのモラハラに悩んでおり、弁護士である快彦に相談する。

感想

 

酔っぱらって起こした喧嘩で人を殺してしまったという亮介と、母親の自殺の真相がわからず自分のせいだったのではという思いにとらわれている快彦。

疎遠で接点のなかった二人が、徐々に距離を縮めることで快彦が人として成長をしていく物語でした。

快彦には亮介が本当は何を考えているのかがよくわからないのですが、付き合えば付き合うほどに彼の起こした事件に疑問を抱いていきます。

優しく、情にも熱い亮介が、どうしても傷害事件を起こすとは思えません。

誰かを助けるために必死になれる亮介に巻き込まれるうちに、快彦も堅く閉じこもっていた殻を破り始めます。

人に対して一歩踏み込むことは、とても勇気がいることです。

それでも、時には人に癒され救われもするのだと実感させられました。

赦されることのない罪があり、真実が明らかになることがとても苦しく、それを受け入れなければならない葛藤が物語に血を通わせ、循環させているようでした。

そんな折、亡くなった父親の遺品からあることを知ってしまい、物語は佳境を迎えていきます。

その真実を紐解いていく中で、それが亮介の起こした事件とつながっていることを知ってしまいます。

人に本音を話せなくなった快彦と、本当のことを誰にも言えなかった亮介、そんな二人が過去が明るみになる中で本当に心を許しあえる友人になっていく。

その過程で、どういう理由があれ「人殺し」である亮介が出所後の社会で受け入れられることの難しさが描かれています。

序盤は明らかに亮介の方が成熟しており、快彦の歪さが描かれているのだが、徐々に成長していく快彦が今度は亮介を支える側に回っていきます。

消えない過去に捕らわれた二人が前に進もうと足掻いていく、その中で、どんな理由があろうと許されない「殺人」の罪を背負うとはどういうことなのかをを考えさせられます。

人が急に死んでいなくなる、その事実の重さを突きつけられる物語であり、その後も生きていく人々の悩みに向き合う一冊でした。

重たいテーマのなのですが、文章はスピーディでむしろ軽やかであり、そしてどこか日常のあり触れた可笑しみや温かみが溢れています。

いろんなトラブルが起きながらも描かれている内容は事件ものというよりは、快彦と亮介だけでなく周囲の人々も含めた人間ドラマです。

「籠」の扉はすでに開いているかもしれない。あとは踏み出す勇気だけ。

過去と今、秘密と真実と向き合うなかで、それぞれの「籠」から飛び立とうとしていく人々の姿が胸を打つ心優しいミステリーであり、快彦と亮介の二人がそれぞれ何かを背負い、それでも生きていく様を見守りたい一冊でした。

 

こんな人にオススメ

 

・人間関係に悩みがちで壁を作ってしまう
・うしろめたい過去や秘密がある
・温かみのある人間ドラマが好き

事件の被害者や加害者の葛藤、罪と向き合う人間といった重ためのテーマの作品が多い薬丸岳さんですが、今作はライトな描写も多く、比較的わかりやすい作品だと思います。

真実や過去の秘密が紐解かれていく緊迫感とそれらに翻弄される主人公たち、取り巻く人間模様は必見です。

『籠の中のふたり』ぜひ読んでみてください。