今回紹介するのは、くわがきあゆさん著作『復讐の泥沼』です。
くわがきあゆさんは、1987年京都府出身。
第8回「暮らしの小説大賞」を受賞し、『焼けた釘』で2021年にデビュー。
2022年、『レモンと殺人鬼』で「このミステリーがすごい!」大賞・文庫グランプリを受賞しました。
前作の『レモンと殺人鬼』がとても印象深かったため、今作も読んでみることにしました。
『レモンと殺人鬼』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。
あらすじ
古民家カフェの崩壊事故に巻き込まれ、
一緒にいた盛岡颯一を喪った日羽光は、彼を見捨てた医療従事者らしき二人の男を捜していた。
なぜ彼らは颯一を助けようとしなかったのか、問い質さねば気が済まなかったのだ。
やがて光は男の一人の身許を特定して接触を図るが、彼は突如として何者かに銃殺されてしまう。
一方、もう一人の男・薬師も光の行方を追っていた。
戦慄のサイコサスペンス!
主な登場人物
日羽光 本作の主人公。古民家カフェの崩落事故に巻き込まれ、恋人の颯一を亡くしてしまう。その颯一を見捨てた男を探している。
盛岡颯一 光の恋人。証券会社の営業マン。崩落事故で命を落とす。
黒田俊樹 皮膚科医。崩落事故に居合わせており、救助にあたっていたが、颯一を見捨てて離れてしまう。
薬師航 事故当時、黒田と一緒にいた男性。颯一や黒田との関係とは、、
日羽玲子 光の母。重い病気を患っており、肺の移植を必要としていた。
山路春雄 新聞記者。妻のいずみが玲子と同じ病院に入院していたため、光といずみもつながりを持つようになった。後にいずみは他界してしまったが、その後も光は春雄に、崩落事故の関係者情報を聞き出そうと動いていた。
感想
主に二人の人物の視点を変えながら進んでいくのですが、どこか違和感を覚えます。
読み進めてくうちに物語は二転三転し、読む前と後では登場人物に対する印象がガラッと変わります。
クライマックスでそれまでの違和感、伏線などを一気に回収する感じは爽快でした。
読後感は、胸糞悪いようなイヤミスと呼べるような結末で、登場人物の誰一人共感できない、クズ人間ばかりでしたが、人物の表と裏、行動とその思惑などそれまでの謎が次々と明らかになるラストの展開は圧巻でした。
モヤっとするのに、なぜかスッキリする。
そんな読後感で、前作の『レモンと殺人鬼』にも似たような構成でしたが、見事に上回る出来栄えだったと思います。
くわがきあゆさんは前作の『レモンと殺人鬼』でも感じましたが、読者の先入観を巧みに利用するどんでん返しが秀逸ですね。
伏線が随所に散りばめられており、ミスリードや叙述トリックを用いて、どこか違和感を感じつつも勝手な解釈で読んでいくと、物語はあらぬ方向に進んでいる。
どこから騙されていたのか、それすら分からず作者の手の上で転がされる感覚でした。
愛する人のために行動することは献身であったり、慈愛であったり行動原理はさまざまですが、目的達成のために異常なまでの執着はまさにサイコパスそのもの。
その行動を正当な権利であるかのように振る舞う姿は、無垢であり、無自覚というか。
悪びれもせず、権利だけを主張し、自分は正しいと思っている悪こそが最大の恐怖なのかもしれません。
そんなことを思わせる作品でした。
こんな人にオススメ
・サイコサスペンスが好き
・復讐劇が好き
・目的のためなら手段を選ばない
恋人を亡くした人の復讐劇かと思いきや、読み進めるうちに物語の様相は変わっていきます。
登場人物の誰一人にも共感できませんでしたが、まさに泥沼のようにハマってしまう展開は必見です。
『復讐の泥沼』ぜひ読んでみてください。