今回紹介するのは三日市零さんの『復讐は芸術的に』です。
前作の『復讐は合法的に』の続編になります。
著者の三日市零さんは1987年生まれ。
福岡県出身。埼玉県在住。慶應義塾大学卒業。
第21回「このミステリーがすごい!」大賞・隠し玉として『復讐は合法的に』で2023年にデビューしました。
『復讐は合法的に』の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。
あらすじ(裏表紙より)
悪質なグルメ系YouTuberの恨みを買い、嫌がらせを受ける定食屋に現れたのは絶世の美人・エリス。
店主の依頼を受けてYouTuberを返り討ちにしたエリスは、自身を「合法復讐屋」と名乗る。
ブラック企業の死亡事故、柴犬の虐待事件
・・・・・・さまざまな依頼人の復讐を請け負うなかで、エリスは予想外の事件に直面する。
元恋人への復讐を依頼してきた青年が、殺害容疑をかけられたのだーー。
内容紹介(ネタバレなし)
Case1 配信者
都内で定食屋を営む陽平は、とあるグルメYouTuberから嫌がらせを受けていた。
生放送回の突撃取材を断った腹いせに、動画内での店の酷評、中傷の貼り紙等に疲弊していた陽平は、たまたま店に食事に来ていたエリスと知り合い、相談を持ちかける、、
Case2 労災
依頼人の浪川志津は目を腫らして俯いていた。
孫・浪川敦史が職場で倒れ、脳溢血で亡くなったのだ。
後々、労災が認定されたが、志津が遺品を引き取りに職場を訪れると、社長室から
「浪川が死んだせいで、まずいことになった」と話してるのが聞こえる。
果たして死の真相は、、
Case3 親友
上條隼太は小学生。
可愛がっていた野良犬の「ハル」が虐待されたので調べてほしいと依頼を受ける。
前代未聞の小学生からの依頼だが、渋々承知するエリスは後日、
ドッグランで個性豊かな隼太の「犬友」を紹介される。
Case4 冤罪
一人暮らしの女性・小野寺梢が殺された。
警察は元交際相手を重要参考人として確保した。
男の名は吉田優佑、今回の依頼人である。
復讐のターゲットは死亡。さらに依頼人がその殺害嫌疑をかけられてしまった、、
感想
前作に続いて、より繊細で緻密に構築が練られている作品だと感じました。
Case1 は序章に相応しい物語でした。
定食屋とグルメYouTuberという対立構造が想像しやすく、秘書のメープルや刑事のケンなど前作から続くキャラも活躍していたため、物語の導入として心を掴まれました。
Case2 では何者かの手記調から入り、各登場人物の視点を変えながら話が進んでいく展開。
また、法人と個人という対立構造もCase1とは真逆の展開を見せてくれました。
そして、ネタバレになるので言えませんが、終着点は意外なものでした。
さらにCase3、Case4と続いていきます。
今回も伏線回収やトリックが緻密で秀逸ながら、やはりメープルやケンといった登場人物のキャラ立ちは放っておけません。
各話のアクセントであり、清涼剤であり、ミステリーがドロドロになりすぎないのはこの二人のおかげだと思います。
何より、エリスという裏稼業を営んでいる者が得体の知れないものではなく、一人の人間なのだという、キャラクターに血を通わせている存在になっています。
読んでいる私も、みるみるうちにその世界観へと引き込まれてしまいました。
しかし、それだけではありません。
合法復讐屋・エリスはしっかりとした矜持と人間味を持ち合わせています。
「アタシは依頼人の願いを叶えるために必要な工作だけを行うの。もしうまくいかなかった時も、責任は自分にある」(引用)
「アタシは『悪役を背負う覚悟がないくせに悪さをするヤツ』が、世界で一番嫌いなの」(引用)
復讐をするにはそれ相応のリスクを背負う覚悟が必要なのも明白です。
復讐により救われる人もいれば、同等の数だけ堕ちてしまう人も存在するわけです。
無差別に争いの火種を撒くわけでなく、覚悟と信念を持ち、あくまで依頼人を守るために裏の世界で生きていくエリスの行動原理が今回もしっかり描かれており、その個性に魅了されました。
こんな人にオススメ
・リーガルミステリーが好き
・スカッとするような復讐劇が好き
・『復讐は合法的に』を読み終えている人
今回も各章がそれぞれで完結しており、全四章からなる短編集と捉えて差し支えないと思います。
そして、『復讐は合法的に』を先に読んでおいた方が、より楽しく読めると思います。
ミステリー初心者でも読みやすく、その続きの展開が気になる異色のリーガルミステリー『復讐は芸術的に』ぜひ読んでみてください。