今回紹介するのは織守きょうや氏著作『キスに煙』です。
織守きょうや氏は1980年ロンドン生まれ。
2012年『霊感検定』で第14回講談社BOX新人賞Powersを受賞し、デビュー。弁護士として働きながら小説を執筆。
2015年『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞。同作はシリーズ化され累計60万部を突破。映画化でも話題になりました。
ほか『花束は毒』『彼女はそこにいる』『隣人を疑うなかれ』など著書が多数あります。
『隣人を疑うなかれ』の紹介記事はこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレの無いようあらすじ・感想を書いております。
あらすじ
愛した人は、殺人者かもしれないーー。
かつてフィギュアスケーターとして活躍し、引退後はデザインの仕事をする塩澤。
彼と好敵手として競り合い、今もトップスケーターの地位にある志藤。
互いに、自分の持たないものを持つ相手として意識し続ける二人だが、塩澤にはライバル心だけではない、ひた隠しにするもうひとつの思いを抱き続けていた。
ある日、塩澤の昔の恋人であり、志藤とは犬猿の仲であったコーチのミラーが転落死したとのニュースが入る。
孤高のスケーターで敵も多かったミラーの死は、周囲に動揺をもたらす。
あいつ、殺されたんじゃないか?
火のない所に煙は一ー
とばかりに広がる不穏な噂に搦めとられるように、
塩澤と志藤は互いに
これまでとは違う視線を向けるようになる。
告げるだけで重荷になると秘めた恋心、自分のために罪を犯したのではという疑心。
二つの感情の狭間で、互いを守るための選択とはーー。
主な登場人物
塩澤詩生:独特な自分だけの世界観を持っている 元トップクラスのフィギュアスケーター。ある時、自分自身に限界を感じて競技を引退。現在はデザイナーとして選手の衣装などを手掛けている。
志藤聖:現役で最高峰の競技者。王者という二つ名にふさわしい振る舞いと競技の滑りを持ち合わせた塩澤の親友であり元ライバル。
アレックス・ミラー:塩澤や志藤がフィギュアスケーターとして名を馳せ始めた頃には既に現役ベテラン選手だった。現在は引退し、日本でコーチをしている。
感想
今作の舞台は氷上の世界。いわゆるフィギュアスケートの業界で起こる物語です。幕間があって全4部構成となっております。
軸となる語り手はおらず、第1部は塩澤、2部で志藤、3部が塩澤、4部がミラー視点で描かれます。
そして、幕間ではいずれかの人物の視点で手記調の語りがあり、不穏な影が鳴りを顰めています。
不穏な冒頭シーンから始まる物語。 アスリートの繊細な心や矜持。スポットライトに当てられる者とその陰で嫉妬や執着を燃やしている者。
友人への心に秘めた恋、才能で戦う世界を経験したからこそ分かち合えるもの、才能の尊さや残酷さだったり、 友人という枠にはまる切なさも書かれていましたが、冒頭の不穏なシーンが頭から離れず、ずっと猜疑心を持ちながら読んでしまい、その展開から目が離せませんでした。
物語は、ある人物の不審な転落死という事実からミステリー展開へ進むと思いきや徐々に様相が変わっていきます。
塩澤の屈折した癖がありながらも彼の魅力が他の人物の視点を通して感じられ、終盤では志堂の真っ直ぐな魅力が際立っていました。
ミステリー好きとしては終盤に向けて、もっと多くの視点を使って読者に疑惑の種を蒔いて欲しかったのですが、ミステリー要素と友情や恋心、そのどれにも振り切るのではなく、各キャラの魅力や葛藤などの心理描写も丁寧に描きつつ、ミラーの死の真相という不気味さが良いバランスで並行していたと思います。
その結果、この物語はどういう終着点で落とし所をつけるのだろうという緊張感を抱きつつ、すべてが未解決の状態でラストシーンを迎え、一気に物語が完結するので飽きることなく読むことができました。
ネタバレすれすれでいうと、これはミステリー要素を含んだ恋愛作品、群像劇のようなものだと感じました。
こんな人にオススメ
・プロスポーツの世界にいる人
・友情や恋に悩んでいる人
・才能に執着したり、嫉妬したことがある人
織守きょうやさんの作品は『花束は毒』や『隣人を疑うなかれ』を読んだことがありますが、織守さんは表と裏の使い分けが秀逸でミスリードや伏線回収に不自然さがありません。
その展開には毎度驚かされています。
今作『キスに煙』にも驚きの展開があるかもしれません。ぜひ、読んでみてください。