全国の書店員が「今一番売りたい本」を選ぶ、本屋大賞。
2024年2月1日に、全10作のノミネート作品が発表されました。大賞の発表は4月10日です。
2024年はジャンルが幅広く、メッセージ性があり、心に響かせるような作品が多い印象を受けました。また、新人作家さんも多い一方で、凪良ゆうさんや青山美智子さんなど、中堅・ベテラン作家さんの選出も多いように感じました。
全作品を読んで順位・大賞予想をしながら、個人的なランキングも発表しようと思います。ぜひ最後までお付き合いください。
本屋大賞とは
賞の概要
書店員の投票だけで選ばれる賞です。
「本屋大賞」は、新刊書の書店(オンライン書店も含みます)で働く書店員の投票で決定するものです。
過去一年の間、書店員自身が自分で読んで「面白かった」、「お客様にも薦めたい」、「自分の店で売りたい」と思った本を選び投票します。
また「本屋大賞」は発掘部門も設けます。この「発掘部門」は既刊本市場の活性化を狙ったもので、過去に出版された本のなかで、時代を超えて残る本や、今読み返しても面白いと書店員が思った本を選びます。
選評方法
(1) 一次投票で一人3作品を選んで投票
(2) 一次投票の集計結果、上位10作品をノミネート本として発表
(3) 二次投票はノミネート作品をすべて読んだ上で、全作品に感想コメントを書き、ベスト3に順位をつけて投票。
(4) 二次投票の集計結果により大賞作品を決定
投票の得点換算は、1位=3点、2位=2点、3位=1.5点
日程
2023年 12月1日(金) 一次投票、発掘部門、翻訳小説部門、投票スタート
2024年 1月8日(月祝) 一次投票、発掘部門、投票締め切り
2月1日(木) ノミネート作品発表
二次投票スタート
2月12日(月祝) 翻訳小説部門 投票締め切り
2月29日(木) 二次投票締め切り
4月3日(水) 発掘部門の結果発表
4月10日(水) 大賞作品、翻訳小説部門の結果発表
順位予想
第10位 放課後ミステリクラブ/知念実希人(ライツ社)
・あらすじ
夜の学校、プールにはなたれた金魚。
だれが、なんのために?
4年1組、辻堂天馬、柚木陸、神山美鈴、通称「ミステリトリオ」が先生の依頼で動き出す!
「ぼくは読者に挑戦する」
名探偵辻堂天馬の挑戦にキミはこたえられるか?
・予想理由
史上初の児童書がノミネートされ話題に。
学校を舞台に謎を解く小学生が主役の子ども向けミステリー。
親子で楽しめるミステリーとはいえ、しっかり練り込まれた伏線や推理など内容は大人顔負けです。
児童書としてはよくできた作品ですが、本屋大賞という枠組みの中で優劣をつけるならこの順位にならざるを得ないかと感じました。
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第9位 君が手にするはずだった黄金について/小川哲(新潮社)
・あらすじ
才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは「承認欲求のなれの果て」
認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの?
青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家…….著者自身を彷彿とさせる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短集。
彼らはどこまで嘘をついているのか?いや、嘘を物語にする「僕」は、彼らと一体何が違うというのか?
いま注目を集める直木賞作家が、成功と承認を渇望する人々の虚実を描く話題作!
・予想理由
主人公は一人称「僕」の著者・小川哲。
私小説のようなエッセイのような不思議な感覚の短編集。
すべて小川さんが体験したリアルに基づいて書かれているのか、どこまでが本当で、どこまでが創作なのかがわからない絶妙なラインで描かれており、著者の技巧が光っていました。
自分を偽りながらも承認欲求を満たそうとする人物たちに出会いながらも、可能世界という虚構に想いを巡らせる小説家もまた偽りの成功を手にしようとしていること。
小説家が描く「小説家」を主人公とした物語。本物と偽物は紙一重であり、その世界に生きる自分は何者なのか。
どこか哲学のような要素があり、いろいろ考えさせられるし、きっと読者によって解釈が違うと思います。
私は面白いと感じましたが、万人ウケするかというと微妙なラインだと思うのでこの順位になりました。
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第8位 水車小屋のネネ/津村記久子(毎日新聞出版)
・あらすじ
「家を出ようと思うんだけど、一緒に来る?」
身勝手な親から逃れ、姉妹で生きることに決めた理佐と律。ネネのいる水車小屋で番人として働き始める青年・聡。
水車小屋に現れた中学生・研司、、、
人々が織りなす希望と再生の物語。
・予想理由
境遇に恵まれなかった18歳の姉と8歳の妹が家を出てからの40年間の物語。
そんな姉妹の人生の中心にいるのが、ヨウムのネネです。
そしてネネを取り巻く、姉妹をはじめとした人たちの思いやりの連鎖。読み終えた後も胸の中が温かいもので満たされた気持ちでいっぱいになりました。
家を出てきた姉妹にとっては、この地で出会った人たちがもう家族のように大切な存在であり、人との出会いを大事にすることってこういうことなのだと改めて気づかせてくれました。
物語に厚みがあり、心温まる内容なのですが、中弛みもあり、起承転結に乏しく淡々と語られていた印象なのでこの順位としました。
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第7位 リカバリー・カバヒコ/青山美智子(光文社)
・あらすじ
新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園にある古びたカバの遊具・カバヒコには、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。
アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。
・予想理由
自分が治したい部分と同じ部分を触ると回復するという不思議な都市伝説。
オカルトや魔法、ファンタジー要素は一つもなく、自分の弱さや甘えはほとんどが自分に原因があり、それに気づきを与えてくれるのは人、気づくのは自分自身でしかない。
社会の風潮や環境、人間関係など逆風に吹かれながらもそれらは全てカバヒコを通じて教わることができる。
周囲の人間の温かさや著者の世界観、こんなに優しい世界があったんだなとほっこりするような作品でした。
メッセージ性が強く、短編5編と読みやすい作品です。もっと上位に入ってもおかしくないのですが、大賞に届くかと言われると他のノミネート作品と比べ、やや物足りなさを感じてしまったのでこの順位になりました。
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第6位 成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈(新潮社)
・あらすじ
中学2年生の成瀬が「島崎、わたしはこの夏を西部に捧げようと思う」と突飛なことを言い出す。
その意味するところ、1カ月後の営業終了を控えたデパート西武大津店から生中継される地元ローカル番組に毎日映り込むというものだった。
ありがとう西武大津店、膳所から来ましたなど短編6編。
・予想理由
登場人物のキャラクターがしっかりと立っておりそれぞれの魅力を引き出している作品だと感じました。メインで語られる成瀬には圧倒的主人公感があり、とにかくかっこいいです。
その姿は読んでいて爽快感があり、帯にも書かれている通り、かつてなく最高の主人公だと思いました。
大人になると、挑戦する理由よりも挑戦しない理由を見つけては、自分の心に蓋をしてしまがちですが、何を始めるにも遅いなんてことは決してありません。
何かを始める一歩を踏みだす勇気をくれる、そんな一冊でした。
非常に読みやすくオススメしやすい作品で読書家からの評価は高く、大賞と予想している声も聞くのですが、中学生が主人公の青春小説とあって物語の厚みがもう少し欲しいと感じたのでこの順位と予想しました。
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第5位 スピノザの診察室/夏川草介(水鈴社)
・あらすじ
雄町哲郎は京都の町中の地域病院で働く内科医である。
三十代の後半に差し掛かった時、最愛の妹が若くしてこの世を去り、一人残された甥の龍之介と暮らすためにその職を得たが、かつては大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。
哲郎の医師としての力量に惚れ込んでいた大学准教授の花垣は、愛弟子の南茉莉を研修と称して哲郎のもとに送り込むが……
・予想理由
命を救うのも医療、看取るのも医療。
医師は患者の病態、本人や家族の意思、経済状況などあらゆる側面を考慮した上で、最善の選択をしなければならなく、その人にとっての「幸せ」とは何なのか、果たしてその選択に誤りはなかったのか。
医療の現場での医師たちの葛藤が鮮明に描かれていました。
大学病院で最先端の技術研究を求め患者の命を救う医療。
地域医療に根ざした小さな病院で患者一人一人の顔を見て、時には治らない病気に向き合わなければならない医療。
正反対のようですが、その人が願う幸せをより身近なものにするために、高めあい、時には葛藤する医師たちの姿が鮮明に描かれていて、とても胸を打たれました。
人の幸せとは何なのかについて医療を通じて突き詰めており、万人に読んでほしい作品だと感じました。ここから先は本当に僅差で、どの作品が大賞でもおかしくないと思いました。
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第4位 星を編む/凪良ゆう(講談社)
・あらすじ
瀬戸内の島で出会った櫂と海。二人を支える教師・北原が秘めた過去。
彼が病院で話しかけられた教え子の菜々が抱えていた問題とは?
風光明媚な瀬戸内を舞台にした愛の物語再び。
春に翔ぶなど、短編3編。
・予想理由
一般常識的に正しくないことを肯定するわけではなく、ただ、家族や恋人、夫婦、その愛の形はそれぞれにあって、どこかそれを許してしまえる優しさが作品の中に散りばめられており、愛というものが正しさや常識を浄化してくれる。そんな印象を受けました。
澱みながら足掻きながら歪みながら、決して正しくも美しくもなかったかもしれません。
愛の形はそれぞれにあり、その形を変えながらもまっすぐに自分の人生を歩み続けること。
この物語は純愛を描いた作品であり、自分の人生を生きる覚悟も描いた作品だと感じました。
昨年の大賞作『汝、星のごとく』では語られなかった登場人物に触れるスピンオフと呼べる作品です。非の打ち所がない良作なのですが、『汝、星のごとく』を読んでいないと感動も半減してしまいます。スピンオフ作品がどこまで票を伸ばせるかといったところなのでこの順位としました。
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第3位 レーエンデ国物語/多崎礼(講談社)
・あらすじ
異なる世界、西ディコンセ大陸の聖イジョルニ帝国。家に縛られてきた貴族の娘・ユリアは、英雄の父・ヘクトルと共に冒険の旅に出る。
呪われた地・レーエンデで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手・トリスタン。
はじめての友達をつくり、はじめて仕事をし、はじめての恋を経て、親族の駒でしかなかったユリアは、やがて帰るべき場所を得た。
時を同じくして、建国の始祖の予言書が争乱を引き起こす。レーエンデを守るため、ユリアは帝国の存立を揺るがす戦いの渦中へと足を踏み入れる。
・予想理由
本格ファンタジーとあって、とにかくその世界観に魅了されてしまいました。
まるで、この物語のヒロインであるユリアとともにレーエンデを旅することができたような、不思議な読書体験でした。
レーエンデ地方の人々の温度をすぐ隣で感じることができましたし、終わりが近くなるにつれて、ページを捲る手は加速していき、終わってほしくない、永遠に物語を感じていたいと思いました。
本作はシリーズ化されており、現在第3部まで発行されています。
ファンタジー作品は2018年に辻村深月さんの『かがみの孤城』が大賞を受賞しており、ハリーポッターシリーズやロードオブザリングシリーズなど、読者を選ばず、一定数の人気を誇るオススメしやすいジャンルだと感じたのでこの順位としました。
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第2位 存在のすべてを/塩田武士(朝日新聞出版)
・あらすじ
30年前に起こった前代未聞の「二児同時誘拐事件」
1人は数日後に無事保護されるも、もう1人の被害者内藤は行方不明に…
しかし、事件から3年後、被害男児の亮は突然、祖父母の元に現れる。
事件は未解決のまま30年の月日が過ぎ、当時警察担当だった新聞記者の門田は誘拐事件の捜査にあたった刑事が引退後も事件の真相を追っていたことを知る。
旧知の刑事が亡くなったことをきっかけに被害男児の「今」を知った門田。意思を引き継ぎ事件の真相を探っていく。
内藤亮の「空白の3年間」について調べるうちにある写実画家とその妻の存在が浮かび上がる、、、
・予想理由
バラバラだったピースから「空白の3年間」という一つの物語が紡がれた時、その愛に溢れる結末に震えが止まりませんでした。
あぁ、そういうことだったのかという納得感と清々しい読了感。そのタイトルの秀逸さも唸るものがありました。
誘拐事件の裏側に潜む紛れもない真実。それは『存在』の美しさと生きることの尊さ、確かにあった愛情。それらをしっかりと世に残すために筆を握り続けるという写実画家の矜持。
誘拐事件と画家、記者、それに愛情と一見すると相容れない要素をこれでもかと見事に描き込んだ著者の筆力には脱帽しかありませんでした。
メッセージ性が強く、起承転結がはっきりしており展開が早いのに厚みもある作品。
ジャンルはミステリーながら愛情について描かれる後半はあまりミステリーっぽさが無いのも特徴。大賞でもおかしくないのですが、第1位に予想した作品が秀逸すぎるので、惜しくも第2位と予想しました。
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第1位 黄色い家/川上未映子(中央公論新社)
・あらすじ
約20年前に一緒に暮らしていた黄美子が、女性を監禁したとして罪に問われたというニュースをみた花は、当時の記憶を思い出していた。
15歳の夏、スナックを転々とするシングルマザーと暮らす花であったが、しだいにその生活に息苦しさを覚え、あることがきっかけで緊張の糸が切れてしまう。憂鬱に浸る中、救い出してくれたのは黄美子であった。
17歳の時に家を出て、黄美子と一緒にスナック「れもん」を開店する。黄美子の友人である映水や琴美らの支えもあり、お店は軌道に乗り始める。
「れもん」の近くでホステスをやっていた蘭、客としてやって来た女子高生の桃子らも一緒に働き始め、4人は一緒に暮らすことになる。
そんな少女たちの奇妙ともいえる共同生活はあることをきっかけに崩れ始める、、、
・予想理由
モノクロで息苦しい生活から、光り輝く人生への第一歩のきっかけをくれた、いわば恩人である黄美子との出会い、幸も不幸も全てはここから始まります。
その生活も不幸が重なり、しだいに崩れていきます。
みんなの家を守りたい。自分の居場所を取り戻したい。
主人公の花が金に狂わされ、堕ちていく様が丁寧に描かれていて終盤での狂気には恐怖を感じました。
その終焉は、私たちはやらされていただけ。
幸福を求めた果てに絶望を味わうことになった少女達。では幸せはどこにあったのか。
お金に狂い罪を犯すことの本質に迫る圧巻の作品で圧倒的な第1位です。
壮大なスケールと読む者を引き込む文章、600ページもの厚みから繰り出される展開力には一切飽きがきませんでした。
そして、大人の身勝手さや無力さとそれに巻き込まれる少女達の構図にはメッセージ性も強く、読後の後味の悪さはいい意味で考えさせられます。
ミステリー作品は本屋大賞ではあまり上位に来ない傾向にあるのですが、2009年に湊かなえさんの『告白』が大賞を受賞しており、それを彷彿とさせる作品です。文句なしの第1位予想です。
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最後に
いかがだったでしょうか。
ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました。
今回の予想は私の主観と過去の傾向や他の読書家の意見等から考えたものであり、作品や著者、その関係者を批評するものではありませんのでご了承ください。
大賞の発表は4月10日です。
最後に私個人の読んでもらいたいランキングを掲載して記事を締めくくりたいと思います。
1位 存在のすべてを
2位 黄色い家
3位 スピノザの診察室
4位 リカバリー・カバヒコ
5位 成瀬は天下を取りにいく
6位 君が手にするはずだった黄金について
7位 星を編む
8位 水車小屋のネネ
9位 レーエンデ国物語
10位 放課後ミステリクラブ