田舎暮らしの30代看護師
自己満
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ミステリー

『告解』薬丸岳  贖罪の果てにあるもの

 

罪を犯してしまい、実刑判決を受けてしまった人間のその後って気になったことありませんか?

犯した罪の内容、その人の年齢や社会環境など様々ですが、罪を犯した人間にもその後の人生があります。

周囲のイメージや世間体など風当たりが強いことは想像できますが、なんとか踏ん張って更生の道を歩んでほしいですよね。

さて、本日は事件の加害者の贖罪の在り方を問う作品・薬丸岳氏著作「告解」を紹介しようと思います。

薬丸岳氏は1969年兵庫県生まれ。2005年に「天使のナイフ」で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。

2016年に「Aではない君と」で第37回吉川英治文学新人賞を、2017年に短編「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞〈短編部門〉を受賞。

他の著書に、映像化もされた「悪党」「死命」「友罪」や「刑事・夏目信人」シリーズ(「刑事のまなざし」「その鏡が嘘をつく」「刑事の約束」「刑事の怒り」)、「神の子」「ガーディアン」「蒼色の大地」「籠の中のふたり」などがあります。

「罪の境界」紹介記事のリンクはこちらをクリック。

「籠の中のふたり」の紹介記事のリンクはこちらをクリック。

当ブログではなるべくネタバレの無いよう、あらすじ・感想を書いております。

あらすじ(帯表紙より)

 

罰が償いでないならば、僕(加害者)はどう生きていけばいいのだろう。

飲酒運転中、何かに乗り上げた衝撃を受けるも、恐怖のあまり走り去ってしまった大学生の籬翔太。翌日、一人の老女の命を奪ってしまったことを知る。自分の未来、家族の幸せ、恋人の笑顔。

失うものの大きさに、罪から目をそらし続ける翔太に下されたのは懲役4年を超える実刑だった。

一方、被害者の夫である法輪二三久は、ある思いを胸に翔太の出所を待ち続けていた。

 

 

主要な登場人物

 

籬翔太 〜 本作の主人公。京北大学の学生。友人と居酒屋で飲んで帰宅後、恋人の綾香からのメールを見て、車で向かうところ八十一歳の法輪君子を撥ね、命を奪ってしまう。裁判の結果、懲役4年の実刑判決が下されてしまう。

栗山綾香 〜 翔太の恋人。事件の日、大事な話があると翔太を試すようなメールをしてしまい、事故の一因は自分にもあると自責の念を抱いている。

籬敬之 〜 翔太の父。教育評論家としてテレビにも出演している。

法輪昌輝 〜 事件の被害者・君子の息子。事件の一報を聞き、君子の本人確認をした。事件後も高齢である父・二三久を気にかけ、自宅に連れて帰ろうとしていた。

前園 〜 翔太が出所後、派遣先の職場で知り合った男性。翔太と同じく前科持ちということもあって翔太を飲みに誘ったり、仕事を紹介しようとしていた。

法輪二三久 〜 被害者である君子の夫。事件後、ある思いを果たすために出所した後の翔太に会わなければならないと言っていた。

 

感想

 

各登場人物の気持ちの移り変わりが丁寧に描かれており、かつテンポの良い作品だと感じました。

翔太や昌輝、二三久など視点が変わりながら物語が進んでいきます。翔太は初めこそ友人や恋人、家族や自分の将来など失うものを恐れるあまり、事件の真実を隠していました。

認めてしまったら被害者遺族から罵声を浴びせられ、復讐をされるかもしれない。社会からも冷たい目で見られ、まともな職に就くのも難しいかもしれない。

友人や恋人、家族も離れていくかもしれず、元の生活に戻るのは困難を極めるでしょう。場合によっては取り返しのつかないことになり、崩壊の一途を辿るかもしれません。

一つのかけがえのない命を奪ってしまい、激しい後悔の念に襲われます。出所後は自分がしてしまったことを悔い改めようとします。

自分が二十代という貴重な時期に5年近くも刑務所に入り、割に合わない償いをしている。これ以上時間を無駄にしてはいけないよ。

出所後に出会った前園の言葉です。

自分が犯した罪を反省することのない、そんな人間たちに囲まれて生活するほうが、ずっと生きやすいのかもしれない。

必死に更生しようとする翔太ですが、そううまくはいきません。前科という呪縛、自責の念や後悔、事件の記憶、感触、そして被害者遺族からの遺恨などがまるで亡霊のように付き纏います。

それらに負けてしまいそうになり、一時は自暴自棄気味になってしまう翔太ですが、綾香の支えや父の手紙など周りの人たちの思いを知り、打ち勝とうとします。

ここしばらくずっと考えていました。自分にとって一番辛いこと、一番辛い仕事は何だろうと。それは自分が死なせてしまった八十一歳の女性近い人たちと接することだと思いました。自分が少しでもその人たちの役に立てるかどうか試したかったんです。

主人公の葛藤や気持ちの変化が繊細に描かれており、もがき苦しみ支えられながらも自分が犯した罪から逃げずに向き合おうとする翔太の姿には、こちらも感情移入してしまいました。

綺麗事かもしれませんが、罪を犯した人間が更生しやすく、社会復帰を促せるような日本になれば良いなと感じました。

 

こんな人にオススメ

 

・嘘や偽りで後悔したことがある
・事件や事故の被害者または加害者家族である
・罪や贖罪について興味がある

 

告解とは犯した罪を告白し、神からの赦しと和解を得る信仰儀礼を言います。

物語が進むにつれ、翔太への周りの人間の気持ちの変化、翔太の気持ちの変化が描かれ、そして新たな事実が明かされていきます。

紆余曲折しながらも逃げずに自分の罪に向き合った果てに待つものとは。そして、赦しを得ることができるのか。

二三久が果たさなければならない思いとは何なのか、ラストの数ページで思いもよらない結末が待ち受けています。そこも注目ポイントですね。

薬丸岳氏著作「告解」ぜひ読んでみてください。