アベノマスク、オンライン授業、リモート会議、自粛生活、、、
日本中が未知のウィルスの脅威にさらされていた2020年。医療従事者である私もあの鬱々とした生活に疲弊していた一人です。
あれから約3年。そのウィルスも5類感染症に分類され、当時ほどの息の詰まる生活からは解放されつつありますが、まだまだ油断はできません。
さて、本日はコロナ禍での悲劇に巻き込まれてしまう三人を描いた作品・染井為人氏著作「滅茶苦茶」について紹介しようと思います。
染井為人さんの他の作品として「正義の申し子」「正体」も紹介しております。
「正義の申し子」の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
「正体」の紹介記事のリンクはこちらをクリック。
当ブログでは、なるべくネタバレしないようにあらすじ・感想を書いております。
あらすじ(表紙より)
仕事はそこそこ順調、東京でシングルライフを謳歌する三十代女性が始めた不穏な恋愛。
下校中、不良に堕ちた旧友に再会した、とある北関東の高校生。
老朽化したラブホテルを継ぐが経営不振に陥った静岡県在住の中年男。
刹那な現代をサバイブしながら孤独を胸底に抱える者たちの欲望に駆られた出会いは、彼らをまっさかさまに谷底に突き落とす。
内容(ネタバレなし)
都内で暮らす今井美世子はルックスは良く、収入も世の平均男性以上。独身生活を謳歌しているうちに四十手前になり、コロナ禍での鬱々とした生活が重なってこの年齢になっても結婚できなかった自分に寂しさを感じていた。
友人である早紀にマッチングアプリを勧められ、劉貴福という中華系マレーシア人の男性を付き合うことになる。交際は順調に思えたある日、貴福が運用している暗号資産への投資を美世子もやってみないかと誘われる。二人の将来のためと甘い誘いを断りきれなかった美世子は初めは少額の金を注ぎ込んでいくが、、
群馬の男子校に通う二宮礼央は中学時代は成績優秀で地元の進学校に進むも、自分が井の中の蛙と知り高校では成績下位にいた。友人たちはそんな自分のことをどこか見下しており辟易としていた。
下校最中、不良グループの男女と遭遇し、その中の一人である幼馴染の聖也と再会する。自分を見下す友人よりも、自分のことを仲間だと言ってくれる彼らの元を居場所だと感じ始める礼央は夜な夜な出歩くようになり、、
父が興したラブホテルの経営を継いだ戸村茂一は、コロナ禍で客足が減り経営が危ぶまれていたところ、ラブホテルが持続化給付金の支給対象外となることに悶々としていた。父を尊敬し、ラブホテルの経営にも誇りをもっていた茂一は妻と三人の息子を養っていくためになんとかならないものかと考えていた。
そんな中、幼馴染で友人の小島武則の誘いで訪れたスナックのママ・恵に愚痴をこぼすうちに恵からとあるビジネス話を持ちかけられる、、
感想
物語はコロナ禍の2020年を舞台に今井美世子、二宮礼央、戸村茂一の三人ぞれぞれが負の連鎖に陥っていく様を描いた作品となっています。
交際している男性のからの甘い誘いに乗ってしまった美世子。
不良グループとつるむようになってしまった礼央。
経営不振に陥った会社をたて直したい一心で、とあるビジネスに足を踏み入れてしまった茂一。
三人とも共通して、コロナ禍の鬱々とした生活に疲弊し寂しさを感じており、どこかに自分の本当の居場所があるのではないかと心の拠り所を探しているように感じました。
そんな心身ともに弱ってる状態では冷静な判断能力を失い、普段ではありえないような失敗をしたり、ふとしたことから泥沼にハマってしまう展開を繊細に描いています。
それが突然降りかかる避けようのない悲劇ではなく、少しずつ不穏で怪しげな影が見え始め、徐々に転落していくストーリーなのでよりリアルさを感じましたし、三人がまずいことだと感じつつもあと戻りができない葛藤や心理描写がしっかりとしていて、今後どうなっていくのだろうというハラハラ感がありました。
実際問題、自粛生活を余儀なくされていた日本では幾千もの飲食店が経営破綻し、何名もの医療従事者が疲弊し離職に追い込まれました。そんな中で、この三人のようなどん底に突き落とされるような悲劇に見舞われた人も実在したのではないか、そう感じてしまいました。ただ、もし実在したら鳥肌ものです。
そして、三人が交錯するクライマックスでは怒涛の展開を見せます。
果たしてどんな運命を辿っていくのか、ページをめくる手が止まりませんでした。
こんな人にオススメ
・コロナ禍で生活の変調を余儀なくされた
・環境や周囲の人に流されやすい
・人からのトラブルに巻き込まれた、または巻き込まれそうになったことがある
コロナ禍では、生活への不安や他者への気遣い、行動の制限など何かとストレスのかかりやすい状況が続いていました。現在は少し緩和されましたが、まだまだ安心できるとは言えません。
そんな状況だからこそ、人々が支え合い協力しながら生活しなければならず、この三人の登場人物もうわべだけの関係ではなく本当に信頼できる人間や安心できる環境を求めていたのではないかと感じました。