田舎暮らしの30代看護師
自己満
読書とカフェ巡りが趣味。 SNSも覗いてみてください。
\ Follow me /
恋愛

『汝、星のごとく』凪良ゆう 正しさばかりではない人生の物語

 

夫婦の関係、恋人の関係、親子の関係。社会において関係性は多種多様にあり、夫婦だからこうあるべきだ、恋人だからこうあるべきだというものは、一般論的な範疇で存在するのかもしれません。

しかし、大事なのは人間関係における幸せのかたちは人それぞれだということです。

今回は重いものを抱えながらも自分の人生を生きることを求めた男女を描いた作品・凪良ゆう氏著作「汝、星のごとく」について紹介しようと思います。

 

当ブログでは、なるべくネタバレの無いようにあらすじ・感想を書いております。

 

また、当ブログでは『汝、星のごとく』の続編として描かれた作品『星を編む』も紹介しております。紹介記事のリンクはこちらをクリック。

あらすじ

 

瀬戸内海で暮らす井上暁海は父は浮気相手の家に居座り、母はそのせいで精神的に不安定になり、辟易しながら生活していた。

ある日、関西出身の同級生・青埜櫂と出会う。
櫂も母子家庭であり、自由奔放な母の恋愛に振り回されてきた。

お互いに夢や将来のこと、家庭のことについて話すうちに惹かれ合い結ばれるが、櫂は高校を卒業後、夢を叶えるために上京してしまう。

櫂と一緒に上京を考えていた暁海だったが、母親のことや経済的な理由から上京を断念。

重いものを抱えながらも、もがき苦しみ自分の人生を求め生き抜いた男女の物語がいま幕をあける、、

 

主要な登場人物

 

井上暁海 〜 瀬戸内海で暮らす女子高生。父は家におらず、母と二人暮らし。刺繍に興味があり、とある理由から母に内緒で刺繍の教室に通っていた。高校卒業後は櫂と共に東京への進学を考えるようになるが、精神的に不安定な母親を一人残してはおけないと断念する。

青埜櫂 〜 京都出身の暁海の同級生。父を幼い頃に病気で亡くし、母親と二人暮らし。自由奔放な母の恋愛に振り回され転校してきた。自身は漫画原作者志望であり出版社に投稿したりしている。その投稿作が青年誌への掲載が決まり上京することとなる。

北原先生 〜 暁海と櫂の通う高校の教師。結という娘をもつシングルファザーで暁海と櫂を何かと気にかけ助言を与えている。

林瞳子 〜 暁海の父親の愛人であり刺繍作家。暁海に対して申し訳ないと言いつつも暁海の父を返すつもりもないと言い放つ。ただ、暁海に刺繍を教えたり進学の相談をした際には学費の援助をすると言ったり、何かと気にかけて助言を与えている。

久住尚人 〜 櫂と共に漫画家を目指す青年。櫂が原作を考え、尚人が作画を担当する。櫂とは小説や漫画の投稿サイトを通じて知り合い、描いたものを出版社に投稿し青年誌に掲載されることとなる。同性愛者。

植木さん 〜 櫂と尚人の担当編集者。まだ若い櫂と尚人に対し、編集者としてのみならず大人として二人を気にかけ助言を与えている。

 

感想

 

物語は瀬戸内海と東京を舞台に、暁海と櫂の半生を描いた作品となっています。

父親は愛人の家に居座り、母親はそれにより精神的に疲弊してしまい、弱っている母親を一人残していけないと上京を断念してしまう暁海。

自由奔放な母の恋愛に振り回されながらも夢を掴むために上京し、一躍、成功を掴んだ櫂。

お互いに重いものを抱えつつ、惹かれ合う二人でしたが、遠距離恋愛の果てに様々なことが起こり、疲弊し二人とも立てなくなってしまいます。

二人は互いに親や周囲の目に振り回されていきますが、そこには「普通とは何か」「正しさとは何か」というものが内包されています。愛人の家に居座る父もそうですが、その愛人の家に通い、日常会話をするどころか刺繍を教わったり、食事をご馳走になる暁海のことも私の感覚で言えば普通とは言えません。

では、普通とは正しさとは何でしょうか。世の中、普通で正しいことばかりでしょうか。

父親を返してほしいと暁海と櫂に懇願される瞳子は堂々と言い放ちます。

「いざというときは誰に罵られようが切り捨てる。もしくは誰に恨まれようが手にいれる。そういう覚悟がないと人生はどんどん複雑になっていくわよ。」(引用)

筋も道理もあったものじゃありません。清々しいの一言です。

正しいことばかりじゃない。正しさばかりでは生きられないと知った暁海でしたが、自分は周りの大人たちのように奔放に生きられません。ましてや自分で自分を養うことすらままならない。人生とは選択の連続であり、一つの選択をすれば他方を選択しないということ、それぞれに訪れる未来があり、それが不明瞭だから選択を恐れるわけです。親や瀬戸内海の島という狭い世間の目、経済力といった鎖に縛られた暁海の葛藤や困難に立ち向かう姿が随所に散りばめられており、とても胸を打たれました。

暁海と櫂。すれ違い、離れ離れになるもお互いがお互いの存在を意識し合いながら生きていく二人の間には確かな「愛」が存在しました。それぞれが重いものを抱え、自由さと不自由さの中に生きる両者が自分の人生を歩み始めたとき、訪れる結末から目が離せませんでした。

一般常識的に正しくないことを肯定するわけではなく、ただ、家族や恋人、夫婦そして幸せのかたちはそれぞれにあってどこかそれを許してしまえる優しさが作品の中に散りばめられており、愛というものが正しさや常識を浄化してくれる。この物語は純愛を描いた作品であり、自分の人生を生きる覚悟も描いた作品だと感じました。

 

こんな人にオススメ

 

・自分の人生を生きられない人
・親や周囲の目を気にしてしまう人
・遠距離恋愛の経験がある、もしくは遠距離恋愛中の人

この作品はヤングケアラーや同性愛など社会問題も取り上げられた作品だと感じました。瀬戸内海の島という狭いコミュニティで噂体質の島民からの目、同性愛に対する世間の目など周囲の目を気にしながらも自分の人生を掴もうとする暁海と櫂。

瀬戸内海と東京で離れ離れになっても夕星という同じ宵の星を見るように意識し合う二人。
海、花火や星など風光明媚な瀬戸内海の景色と色彩が伝わってきて、どこか色鮮やかな作品でした。